第4章 ヤマトタケルの東征(とうせい)

ところが、天皇は、こうおっしゃて、ヤマトタケルを驚かせました。
「東の方の十二ある国々(伊勢、尾張、参河、遠江、駿河、甲斐、伊豆、相模、武蔵、総、常陸、陸奥)には、まだ乱暴な神々や従わない人々がたくさんいる。それらをみな征伐して来なさい。」
 天皇は、このようにしきりにおっしゃって、キビノタケヒコ(吉備の臣の祖先で、ミスキトモミミタケヒコ)という者をお伴にされ、ヤマトタケルを征伐に行かせる時に、柊(ひいらぎ)の木で作られた長い矛(ほこ)をお授けになりました。


 ヤマトタケルは、天皇の命令を受けて、やむなくヤマトの国を出発しましたが、まず伊勢神宮を参拝(さんぱい)するために、立ち寄られました。そこで、その神殿にお仕えになっている叔母さんであるヤマトヒメに、こう訴えられたのです。
「父の天皇は、わたしが一刻も早く死んでしまった方がよいと思われているのでしょうか。なぜなのでしょうか。わたしは、西の国の悪い者たちをすべてやっつけて、ヤマトヘ帰ったばかりというのに、すぐに父は、兵も与えてくれずに、さらに東の十二の国の悪人たちを征伐して来いとおっしゃった。これはどう考えても、わたしのことを早く死んでしまえと思われているからにちがいありません。」
 このように、悲しみながらすすり泣くヤマトタケルの姿を見たヤマトヒメは、どてもかわいそうに思って、天皇家の宝である叢雲の剣(むらくものつるぎ=スサノオノミコトが、八岐大蛇を退治したときに、その尾から出て来た刀。)と一つの小さな袋を授けて、こうおっしゃいました。
「もし、あなたの身に危ないことがあれば、この袋の口を開けなさい。」

 元気を取り戻したヤマトタケルは、伊勢を出発し、尾張の国(現在の愛知県西部)へ入りました。ヤマトタケルはそこで、尾張の国造(くにのみやつこ=大化の改新以前の各地方を統治した豪族)の先祖にあたるミヤズヒメという美しい女性と恋に落ちました。彼女の家へ行って、結婚をしたいと思われましたが、東の国の悪者を退治して帰ってからにした方がいいと思いなおしました。それで、ヤマトタケルは、ミヤズヒメと結婚の約束をしてから、出発されました。
 そして、山や川の乱暴な神やヤマトの国に歯向かう人々をみな従えました。

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