第5章 天孫降臨(てんそんこうりん)
アマテラスオオミカミとタカギノカミ(高木神)は、アマテラスオオミカミの息子のアメノオシホミミノミコトに
「今やっと葦原の中つ国(あしはらのなかつくに)が平定されました。あなたは、命じられたとおり、地上に降り立って、この国を治めなさい。」
とおっしゃいました。アメノオシホミミノミコトは、これに答えて
「わたしが、地上に降りようと身じたくをしていたところ、息子が生まれました。その子の名は、ニニギノミコト(邇邇芸命)といいます。わたしの代わりに、若いこの子を降ろした方がよいと思います。」
と言いました。この御子(みこ)さまは、タカギノカミノミコトの娘のアキツシヒメと結婚して生まれた子どもです。子どもは、アメノホアカリノミコト(天火明命)とニニギノミコトの二人でした。
アマテラスオオミカミとタカギノカミは、ニニギノミコトにおっしゃいました。
「この豊かな葦原の水穂の国(あしはらのみずほのくに=葦原の中つ国。日本の国のこと)は、あなたが治める国です。さあ、命じられたとおりに、この天の国から地上へと降りなさい。」
こうして、ニニギノミコトが、天から降りようとしていたところ、天から地上へと行く分かれ道のところに、上は高天原(たかまがはら)を照らし、下は葦原の中つ国を照らす神さまが居座って、その先へ行かせてくれません。そこで、アマテラスオオミカミとタカギノカミの命令を持って、ニニギノミコトは、アメノウズメノミコト(天の岩戸の前で、裸ダンスを演じた女神)にこう言いました。
「あなたは、女神なので力は弱いが、敵対(てきたい)する神と顔をつき合わせたときには、必ず勝つ神です。そこで、あなたはアマテラスオオミカミとタカギノカミの使者として、分かれ道にいる神のところへ行って、『わたしの御子が、天から降りようとしている道をふさいでいるのは誰だ。』とこう聞いてください。」
こうして、アメノウズメノミコトが命じられたとおりに訊(たず)ねたところ、その神は、答えて言いました。
「わたしは、この国(葦原の中つ国)の神でサルタヒコといいます。天の神の御子さまが降りていらっしゃると聞き、ぜひお仕(つか)えしたいと思って、お迎えにやってきました。」
こうして、ニニギノミコトは、アメノコヤネノミコト(天児屋命)、フトダマノミコト(布刀玉命)、アメノウズメノミコト、イシコリドメノミコト(伊斯許理度売命)、タマノオヤノミコト(玉祖命)の五柱の神さまたちに支えられて、天から地上へと降りることになりました。
このとき、アマテラスオオミカミは、三種の神器(さんしゅのじんぎ)の勾玉(まがたま)、鏡、草薙の剣(くさなぎのつるぎ)をニニギノミコトに授けました。また、オモイカネノカミ(思金神)、タヂカラオノカミ(手力男神)、アメノイワトワケノカミ(天岩戸別神)もニニギノミコトの元へに遣わせました。そして、アマテラスオオミカミは、ニニギノミコトにおっしゃいました。
「ニニギノミコトよ、あなたは、この鏡をわたくしの魂(たましい)だと思って、わたしを拝むように、これを大切にお祭りしなさい。またオモイカネノカミよ、そなたは、ニニギノミコトのことをよく助けてやり、そして政治を行いなさい。」
ニニギノミコトとオモイカネノカミは、今も伊勢神宮(いせじんぐう。三重県伊勢市)にお祭りされています。(また、以上のニニギノミコトと同行した神さまたちは、アマテラスオオミカミの「天の岩戸」神話に登場する神々です。)アメノイワトワケノカミは、「天の岩戸」が神となったもので、天皇の宮殿の門をお守りになっています。
さて、こうしてニニギノミコトは、高天原の住まいを離れ、たくさんの雲を押し分けて、たくさんの道を別け入って、天の浮橋(あめのうきはし)に立ち、下界を見下ろしました。。そして、ついに筑紫(つくし=九州)の日向(ひゅうが=現在の宮崎県)の高千穂の峰(たかちほのみね。宮崎県と鹿児島県の県境のある標高1574mの山が伝説の地)という霊山(れいざん)に降り立ちました。
そこには、アメノオシヒノミコト(天忍日命)とアマツクメノミコト(天久米命)という神が、見事な石でできた靱(ゆき。矢を入れる。)を背負い、石の刀、石の弓、石の矢を持って、ニニギノミコトにお仕えするために、出迎えました。
ニニギノミコトは、この高千穂の峰の感想をこうおっしゃいました。
「ここは、朝鮮半島に向いていて、笠沙の岬(かささのみさき。鹿児島県川辺群笠沙町の野間岬)へもまっすぐに行く道がある。朝日が直(じか)にこの山を照し、また夕日も照る美しい国だ。ここは、たいへんすばらしい地である。」
そして、地面の底深くに置いた石の上に太い柱を立て、高天原に届くかのように高い立派な宮殿をお造りになりました。
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