神話を訪ねて(第10回) 伊弉諾神宮(兵庫県淡路市)

今回は夏休みで関西方面を旅行した際に立ち寄った淡路島の伊弉諾神宮(いざなぎじんぐう)をご紹介します。

日本の神話をよくご存知のみなさんにとって、イザナギノミコトについては、解説は不要ですよね。え、、まだよく知らない?では、簡単におさらいをしてみましょう。

イザナギノミコトとイザナミノミコトはご夫婦の神様で、壮大な「愛の行為」によって、この日本列島をお生みになった尊い神様です。(国生み神話)最初は、うまくいかずに、醜い子どもを生んでしまったのですが、ようやく最初の立派な国をお生みになりました。それが、淡路島だとされています。第3章 日本列島の誕生(2)(大八島国)

その後、イザナミノミコトは、ホノカグツチという火の神をお生みになった際に、陰部をやけどし、亡くなってしまいます。イザナギノミコトは、亡き妻を追って黄泉(よみ)の国へ行きますが、既にイザナミノミコトは、醜い姿に変わり果ててしまっていました。イザナギノミコトは、イザナミノミコトと離婚をして、黄泉の国から逃げ出して来たあと、海水でみそぎをします。その時にお生まれになったのが、天照大神(アマテラスオオミカミ)、月読命(ツクヨミノミコト)、須佐之男命(スサノオノミコト)の三神です。

イザナギノミコトは、古事記によれば、淡路の多賀の社にお鎮まりになったとされます。日本書紀では、淡路の多賀に「幽宮(かくりのみや)」を作られてお隠れになったとされます。つまり、この伊弉諾神宮は、古事記・日本書紀お墨付きの「日本最古の神社」ということになるのです。また、全国で「神宮」号を名乗る神社のうち、イザナギノミコト、イザナミノミコトを主祭神とするのは、ここだけです。

神戸の三ノ宮駅から高速バス(神姫バス)で、明石海峡大橋を渡り、約1時間で郡家(ぐんげ)に到着します。ここから、路線バスで約5分の伊弉諾神宮前のバス停を降りると、目の前に花崗岩でできた大きな鳥居が目に飛び込んできます。この鳥居は阪神淡路大震災で一度倒壊したそうですが、氏子、篤志家の奉納で再建されたそうです。堂々たる大鳥居をくぐり、参道を歩いて第二鳥居を過ぎると、その先に雅な池があって、悠々と鯉が泳いでいます。左手には由緒書があり、記紀に記録された日本最古の神社とあります。手水舎も立派なもので、自然石をくり抜いた手水鉢は、秀吉の時代に大阪城築城のために運搬中の石材が誤って郡家港沖に没したものを氏子の漁師が見つけて引き上げたものだとのこと。盥漱(かんそう=手を洗い、口をすすぐの意)と刻字されています。

社殿は、周囲を塀で囲まれており、表神門をくぐって入ります。この門は、明治16年の築造で、檜皮で葺いた威厳のある美しさを備えた立派なものです。拝殿は、明治15年に移築された銅葺(以前は檜皮葺)、入母屋造の舞殿を兼ねた大きなものでした。拝殿の両側に狛犬が配置されておりますが、私にはなぜだか、この雰囲気が、沖縄の首里城とよく似ているように思えたのです。ちなみに、首里城は、こんな感じ。(映っているのは、小学生の頃の息子)

本殿は、明治十二年の建立で、檜皮葺、三間社流造で、棟には伊勢神宮と同様の鰹木、千木が置かれ、前方の幣殿と連結して一屋根となっており、さらに中門があるので、屋根が三段のように見える独特の建築です。明治十二年ですから、130年以上経過していることになりますが、檜皮葺の見事な美しさ、伊勢神宮の唯一神明造にも匹敵する簡素なフォルムの建築美に圧倒されます。伊勢神宮は、30年毎の式年遷宮で新しく建て替えられますが、この神社は、百年以上の年月の重みが社殿の木材に染み込んでおり、厳粛な趣があります。まさに、イザナギノミコトをお祀りする聖地にふさわしい風格ある見事な神社でした。

偶然、お宮参りと思われる赤ちゃんを連れたご家族が、拝殿で祈祷を受けていましたが、その際の巫女さんの舞を拝見することができました。開け放たれた開放的な拝殿の中で、巫女さんが、鈴と扇を持って舞う姿はとても美しかったのですが、この日は、猛暑日で特に暑い日であったこともあって、再び沖縄か東南アジアの国にいるような錯覚に捕われたのでした。

境内には、いくつかの小さな末社がありましたが、特に注目したのは、イザナギ、イザナミの二神を象徴する御神木である天然記念物「夫婦大楠」の脇にある岩楠神社です。これは、「水蛭子(ヒルコ)」神を祀っているのですが、みなさん、この神をご存知ですか?冒頭で述べた、国生み神話で、イザナギ、イザナミのご夫婦が最初に生んだできそこないの子どもで、葦の船で流してしまったといわれる御子です。おそらく、今でいうと水子供養だと思われますが、おそらくヒルコを祀った神社というのは、ここにしかないのではないでしょうか。

また、ユニークなのには「左右(さうの)神社」というのがありました。これは、天照大神と月読命をお祭りしているのですが、なぜ、左右なのか? 古事記ファンのあなたなら、すぐ分かりますよね!古事記の知識が多少でもあると、神社にいったときに面白い発見があるものです。

記紀神話では、イザナギノミコトはイザナミノミコトと離婚されておりますから、本来、この淡路の社に祀られていたのは、イザナギノミコトだけのはずですが、イザナミノイコトもご一緒に祀られたのは明治になってからのようです。これは明治の皇国史観の影響もあったのではないかと思えます。まあ、明治期の国家神道のお陰で、これだけ立派な神社が作られたとも言えるわけですが。

境内の授与所では、御札やお守り、おみくじ、お神酒などがあります。私は、1,500円の伊弉諾神宮の御札を買ってきました。

さて、話は変わって、ご当地グルメです。淡路は、淡路牛や鱧など山海の食材が有名です。神宮から帰りの高速バスのターミナルの津名港までタクシーを頼みましたが、そのタクシーの運転手さんが「淡路一」と絶賛する淡路牛のお店に連れていっていただきました。ガイドブックなどには大々的に載せていないお店とのことですが、地元の人ならだれでも知っているという有名店だそうです。その名も「大公」さん!強力な夏の日差しに乾いたのどを生ビールで潤し、おすすめの淡路牛の石焼ステーキをいただきました。なるほど、子牛の肉のように(そうかもしれませんが)食感はやわらかく、くせがなく美味しい。添え物の淡路タマネギといっしょにペロリ。ごちそう様でした。運転手さんの話では、神戸牛や松坂牛は、もともと淡路から子牛を買い付けて育てたものだそうです。

淡路島は、風光明媚、美味しいものもまだまだたくさんありそうです。また、もっとゆっくりと遊びに来たいですね。

社名

伊弉諾神宮(いざなぎじんぐう)

→ Wikipedia 伊弉諾神宮 

鎮座地

兵庫県淡路市多賀740番地 

(神戸方面)三ノ宮から高速バス約1時間 郡家下車 路線バスで5分 伊弉諾神宮前下車

(大阪方面)阪急大阪から高速バス2時間 津名港下車 路線バスで20分 伊弉諾神宮前下車

御祭神

伊弉諾大神 (いざなぎのおおかみ)

伊弉冉大神 (いざなみのおおかみ)

「日本の神話 古事記」第1章 神々の出現

御由緒

古事記・日本書紀には、国生みに始まるすべての神功を果たされた伊弉諾大神が、御子神なる天照大御神に国家統治の大業を委譲され、最初にお生みになれた淡路島の多賀の地に「幽宮(かくりのみや)」を構えて余生を過ごされたと記される。その御居住跡に御陵が営まれ、至貴の聖地として最古の神社が創始されたのが、當神宮の起原である。地元では、「いっくさん」と別称され日少宮(ひのわかみや)・淡路島神・多賀明神・津名明神と崇められている。

本殿の位置は、明治時代に後背の御陵地を整地して移築されたもので、それ以前は、禁足の聖地であった。御陵を中心として神域の周囲に濠(ほり)が巡らされたと伝へ、正面の神池や背後の湿地はこの周濠の遺構という。

建物や工作物は、明治九年から同二十一年に官費で造営されたものが殆んどだが、神輿庫及び東西の御門は、旧幕時代の阿波藩主の寄進による。

境内地は、約一万五千坪。沖積地にあって天然記念物の大楠など照葉樹林に覆われ、四季を彩る草木が繁茂する日本最古のお社である。江戸時代の地誌によれば、二丁四方の社地を領したとあり、広大な神域であった。

※参拝者用リーフレット「淡路の国・一の宮 伊弉諾神宮 幽宮」より

伊弉諾神宮の見所紹介

(写真をクリックすると拡大します。)

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播磨灘

この日の海はおだやかでした

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郡家(ぐんげ)港

一日のんびり釣りでもしてみたい。

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正面参道

伊弉諾神宮バス停すぐ

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大鳥居

平成7年の阪神淡路大震災で倒壊したが、氏子篤志家の奉納により再建

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放生(ほうじょう)の神池(しんち)
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由緒書
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手水舎

鉢石は、嘉永三年(1850年)の刻印がある立派な花崗岩石

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表神門

奥に見える拝殿の建築様式とマッチした堂々たる表門

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昭和天皇お手植の楠
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拝殿

入母屋造、舞殿を兼ねた拝殿。なぜだか、沖縄の首里城のイメージと重なる。。。

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夫婦大楠(めおとおおくす)

元は二株の木が、成長につれて合体したのだという。

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左右(さうの)神社(境内社)

天照大神、月読命を祭る。さて、なぜ左右なのでしょうか?答えはこちら

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巫女の舞

お宮参り(たぶん)の母子のための祈祷の舞が行われていました。

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本殿中門・幣殿と連結した本殿
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本殿

見事な檜皮葺(ひはだぶき)。三間社造。明治十二年建立。

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茶店・お土産店

「いざなぎ名物 酒饅頭」がおすすめ。さっぱりとした甘さ。売切必至

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石焼 淡路牛

やわらかく、とろけるような淡路牛は絶品。是非おためしを。

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淡路特産のお香

旧一宮町は、全国一の線香の産地。白檀のお香をひとつ買いました。