第4章 スセリビメ 

こうして、オオクニヌシは、オオヤビコノカミの言うとおりに、スサノオノミコトのところへやってきました。そこで、その娘のスセリビメ(須勢理比売)と出会い、二人は、男女の交わりをして、結婚なさいました。スセリビメは、帰って父のスサノオに、
「とってもすてきな神様がいらっしゃいました。」
と報告されました。しかし、スサノオは、
「あれは、アシハラシコオノミコト(オオクニヌシの別名)だな。」
と言い、(娘を取られた怒りからでしょうか、)オオクニヌシを宮殿の中に呼び入れて、ヘビがうじゃうじゃいる部屋に寝かせたのでした。そこで、スセリビメは、ヘビよけの魔力がある布を、夫のオオクニヌシに授(さず)けて言いました。
「そのヘビたちが、あなたを噛もうとしたら、その布を三回振れば、逃げ出すでしょう。」
そこで、オクニヌシは、妻のいうとおりにすると、蛇はおとなしくなり、ゆっくりと眠ることができました。しかし、また次の日の夜には、ムカデと蜂の部屋に入れられました。そこで、スセリビメは、今度はムカデと蜂よけの布を夫に授(さず)けて、同じように使うよう言いました。それで、オオクニシは、かんたんに部屋を抜け出すことができました。

今度は、音の鳴りひびく矢を広い野原の中にはなち、それをオオクニヌシに探してこいと命令しました。オオクニが、原っぱに入ると、その回りに火を放ったのです。どこから逃げ出せばいいのか、オオクニシが迷っていると、一匹のねずみが地面の穴から出て来て、
「内はほらほら、外はすぶすぶ」(外から見ると穴はすぼまってるけど、中はほら穴だよ。)
と言ったので、そこを踏んでみると、地面に穴が空いて落ちてしまいましたが、そのままそこに隠れていたので、火は通り過ぎていきました。また、そのねずみは、音の鳴る矢をくわえて、オオクニヌシに差し上げましたが、その矢は、ねずみの子どもたちにかじられて、ボロボロでした。
 一方、妻のスセリビメは、オオクニシが死んでしまったと思い込み、お葬式の道具を持ってきて、なげき悲しんでおりました。また、父のスサノオも、もう死んだはずだと思って、その野原に出てきましたが、なんとオオクニヌシは無事な姿であらわれ、矢をスサノオに差し上げたのでした。

スサノオは、宮殿にオオクニヌシを連れて来て、とても大きな部屋に案内し、その頭のシラミを取らせてあげようとしました。しかし、その頭には、ムカデがたくさんいたので、スセリビメは、椋(ムク)の木の実と赤い土を夫に授けました。そこで、オオクニヌシは、その木の実を食いちぎり、赤土も口に含んで一緒につばを吐き出しました。それを見たスサノオは、ムカデを食いちぎってツバを吐いているものと思い込み、かわいいやつだと思って、寝てしまいました。
 そこでオオクニヌシは、スサノオの髪の毛をつかんで、その部屋の屋根の垂木(たるき)に結び付けて、五百人で引いてやっと動くかのような大きな石で、部屋の出口を塞(ふさ)ぎました。 それから、妻のスセリビメを背負い、スサノオの大きな刀と弓矢と美しい立派な琴を持って逃げ出そうとしましたが、その琴が木に触れてしまったため、地面が鳴りひびくような大きな音が出てしまいました。それに驚いたスサノオは、その部屋ごと引き倒してしまいましたが、垂木に結ばれた髪の毛をほどいている間に、オオクニヌシとその妻は遠くまで逃げることができたのです。
 しかし、スサノオは、二人の後を追って来て、黄泉比良坂(よもつひらさか)までやって来て、はるか遠くにいるオオクニヌシに向かって、
「おまえの持っている、わしのその太刀と弓矢で、おまえの兄弟だちを山や河に追い払い、オオクニヌシノカミとなり、またウツクシクニタマノカミ(オオニヌシの別名)となり、わしの娘スセリビメを正しい妻とし、御埼山(うかやま。島根県出雲市の山)のふもとに地面の底の石の上に大きな太い柱を立て、天高く千木(ちぎ。神社の建築デザインにみられる、屋上で交叉する木材)を上げて、その宮殿に住め!このコンチクショウ野郎!」
と言いました。
 そこで、オオクニヌシは、その太刀と弓で、兄弟たちの神様たちを追い払い、初めてこの出雲の国をお作りになったのです。さて、あのヤガミヒメですが、かつての約束通りに、オオクニヌシと結婚されて連れてこられました。しかし、正妻のスセリビメに遠慮をされ、自分の生んだ子を木の又に差し挟んだまま、イナバの国にお帰りになってしまいました。そこで、この子を名付けて、キノマタノカミまたは、ミイノカミ(御井の神)といいます。


続きを読む