第3章 キサガイヒメとウムガイヒメ 

「わたしは、あなたたちの言う事は聞きません。オオクニヌシさまと結婚しようと思います。」
 ヤガミヒメは、(イナバの白ウサギが言ったとおり)オオクニヌシの大勢の兄弟の神さまたちにこう言ったので、神様たちは怒り、オオクニヌシを殺そうと相談をしました。そして、伯耆の国(ほうき=鳥取県西部)の手間の山の麓(ふもと)へやってきて、
「この山に赤いイノシシがいる。これをわしらが追い出すから、お前はこれを待って、捕まえろ。もし、失敗したら必ずお前の命をもらうぞ。」
とオオクニヌシに言うと、イノシシに似た大きな石を火でまっ赤に焼いて、山の上から転がして落としたのです。オオクニヌシは、落ちて来た火石をつかもうとして、無惨にもその熱に焼かれて死んでしまいました。
 すると、オオクニヌシのお母さんの神が嘆き悲しみ、高天原に昇って、カミムスビノミコト(神産巣日命)にご相談されました。そこで、カミムスビノミコトは、オオクニシを生き返らせるために、
キサガイヒメ(キサ貝比売。キサ貝=赤貝のこと。)とウムガイヒメ(蛤貝比売。蛤=はまぐり)を遣(つか)わせました。キサガイヒメは、自分の身を削り、ウムガイヒメがそれを受けとめたのを母の母乳のように、オオクニシの体にやさしく塗ったところ、まことに美しい青年に復活したのでした。(※古代の火傷(やけど)の治療方法)
 これを見ていた、兄弟の神様たちは、またオオクニヌシをだまして山へ連れて行き、大きな木を切り倒して、その間にクサビの矢を打って、その中にオオクニシを入らせました。そして、クサビの矢をいきなり放してしまったため、オオクニヌシは、木の間に挟まれて死んでしまいました。それで、またお母さんの神は、泣きながらオオクニヌシを探し求めて、ようやくその体を発見したので、助け出して再びよみがえらせて言いました。
「おなたは、ここにいれば、いずれ本当に兄弟たちに殺されてしまうでしょう。」
それで、お母さんは、紀伊の国(和歌山県)のオオヤビコノカミ(大屋毘古神)のところへ避難(ひなん)させたのでした。
しかし、兄弟の神さまたちは、なおも追いかけて来て、矢で射ろうとしていたときに、オオヤビコノカミは、オオクニヌシを木の又のところから逃がして、言いました。
「あなたのご先祖のスサノオノミコトがいる根の堅州国(ねのかたすくに)へ行きなさい。必ずや、スサノオノミコトが、あなたにいい知恵を授けてくれるでしょう。」

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