べにゆうぎ
二 |
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飯どころで会ったのが昼ごろ。そこから町中をぶらぶらと回ってあれこれ食い歩き、名所があれば寺でも花園でも連れていく。 他愛ない会話をしながら並んで歩いていると、必ずといっていいほどすれ違う奴らが振り返る。 「綺麗なひとね」 「男にしとくの勿体ないな」 朱雀はというと、まさか全部それらが聞こえていないわけはないだろうに、全く気にも留めていない。 「すんごい注目されてるけど、もう慣れっこですかい?」 「慣れっこ慣れっこー。この髪じゃ目立つなって方が無理だろうよ」 「でもそれ、好きで染めてるんでしょ?」 「こんなきっちり染められるか。地毛だよ、地毛」 そういえば、くるんと上を向いている長い睫毛も髪と同じ色だ。何かの染料を使っているにしても睫毛までは染められないだろう。 しかし、どうも年齢不詳なのが少し気になる。 会ってから今まで色々話したが、年下とは思えない達観したところが非常に多い。しかも、ずいぶん昔の世相や話題をよく知っている。学の類も相当できるんだろう。そういった話を出すことはしないが、頭がいいことはなんでもない会話の端々から感じ取れた。 「朱雀さん、もしかして見た目より実は結構歳いってたりします?」 隣で飴細工をちろちろ舐めている様が、やたら可愛い。しかし唇についた砂糖を赤い舌で舐め取る仕草は相反して扇情的。目のやり場に困る。が、本人は「わ、手についた」とかいいながら飴と地味に格闘中。 飴を食べている自分がどれほどなまめかしいか、自覚はないらしい。 「人間の感覚でなら相当歳くってるよ。俺らの感覚でならまだ青二才だけど」 「…………?」 いまいちつかみ所がない。ちょっと天然さんなのだろうか。 それに、気さくに話しかけてくるが、よく分析すると実は自分のことを話そうとしていない。 とりあえず、そろそろこちらから聞いてみるか。 「お仕事は何をしてらっしゃるんで?」 「んー。最近は趣味兼ねた装飾作りが仕事だな。こういうのね。だから分類するなら職人」 言いながら、腕を動かして腕輪を鳴らす。細い金の輪を何本も重ねたそれは、よく見ると全部に違う文様が入っている。 しかしただの職人というには違和感が残る。 それというのも。この別嬪さん、異様なほど賭博に強いのだ。ついさっき後にした賭場は五軒目。一軒目から五軒目まで全勝無敗で回りのヤクザどもを唸らせていた。が、あまりでかいケタは賭けていないため一軒における収入はほどほど。手持ちもあるんだからもっと賭ければいいんじゃないかと言ったらば。 「だってでかい金巻き上げて、逆恨みされたら面倒だし」 色々な意味で大物だ。 無邪気に遊んでいるようで、程度ってものをよく見極めている。 「今日遊ぶ分の金にちょっと上乗せ、くらいを稼げりゃいいんだよ、俺は」 「つーてもそろそろネタ切れですよ。かなりあちこち回りましたからねえ」 「あ、そういえば綺堂んちって夕飯何時ごろ?」 「は?えーと……いつもは大体あと三刻後くらいですが、明後日まで家誰もいないんでその間は俺次第です」 聞かれるままに答えたが、どういう意味なのか分からん質問だ。 「そか。じゃあ今日は別として、遊んでられるのは普段ならあと二刻くらいだな」 「何でですかい?別に飯くらい外で食ってもガキじゃあるまいし問題ないですよ」 「仕事で出てるわけじゃないんだから、夕飯くらい妻子と一緒に食ってやんな」 ん? 今、妻子って言った・・・・? 「ガキはガキの内に、ちゃんと怒ってしつけて褒めてやらないと後で親が苦労するぞ」 「ちょいと待ってくださいな。俺、所帯持ちって言いましたっけ?」 所帯どころか女の話もしていないのに、何故ばれたのか不思議でならない。なのに、言われなくたって分かる、とあっさり返されてしまった。 「んじゃあ、今日の夕飯の予定は?」 「つれないなあ。一緒に食ってくれないんで?」 一人で飯くうのは嫌いじゃないが、やっぱりこんな面白い別嬪さんがいてくれるなら勿論そっちがいい。 「よっしそんなら美味い飯がでる宿屋に連れてけ。案内してくれたお礼に宿代から明日の朝飯まで全部奢ってやるぞー」 そろそろ夕暮れだ。宿をとるなら、確かにあまり遅くならないうちに行ったほうがいい。 「あ、うちに泊まってもいいですよ。格別綺麗じゃないですが広さはがっつりあります」 「ヤダ。俺子供嫌い。ゆえに子供の生活感があるとこも嫌いなの」 子供の心理を察して大人な意見をくれたと思ったら、今度はむしろ子供じみた反応が返って来る。おそらく、彼は子供嫌いなのに懐かれる型だ。大人の上から目線ではなく子供の心理をちゃんと分かってくれる大人というのは、当人の好き嫌いとわず子供に懐かれるものである。 |
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