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    ウイルス病(Virus)

 ラン科植物のウィルス病についての最も古い記録は1943年にオーストラリアで記載された、シンビジウムモザイク病であると言われている。日本にて強い関心を持つようになったのは1964年頃からでウイルス病の発生があまりにも多いことで注目された。ラン科植物に感染すると考えられているウイルスの種類は約30ぐらいと言われていて、代表的なものはCyMV(シンビジウムモザイクウイルス)、ORSV(オドントグロッサムリングスポットウイルス)、CMV(キュウリモザイクウイルス)等があり、感染するランの種類とその病徴によりモザイク病、えそ病、など病名で呼ばれる。
 栽培年数4〜8年のカトレヤ、シンビジウム、デンドロビウム、バンダ、パフィオペディラムの全ての属の80%以上が感染し、ほとんどのものがCyMV(シンビジウムモザイクウイルス)で、他のウイルスとの複合感染が多いことが報告されてる。
 ウイルスの感染性を見るとCyMV(シンビジウムモザイクウイルス)、ORSV(オドントグロッサムリングスポットウイルス)のようにきわめて多くの属に発生するものと、DeMV(デンドロビウムモザイクウイルス)やCalMV(カランセモザイクウイルス)のように極限られた属のみに発生するものが見られる。
 病徴は複雑で同じウイルスでもランの属や種類、病徴の発生場所や環境、時期によって差が見られるだけでなく、いくつかのウイルスは系統が分化していることが認められ、寄生性や病徴が多様化している、さらには複数のウイルスが複合感染してる例も多い。

 
 カトレヤ、花の斑入り(左)、 病原菌はオドントグロッサムリングスッポトウイルス(ORSV)かタバコモザイクウイルス(TMV‐O) 出方は、品種により様々である。写真のものは開花当初から出たもので2輪とも同じように出ている。
 斑入り症状は花弁の地色よりも濃色の場合と白くなるのもが見られる。花弁の表面は平らな場合が多いがわずかに凹んだ状態のことも有る、激しい場合はケロイド状に盛り上がったり、弁が引きつってまともに開かない事も有る。
     

 新葉に出た場合は淡黄色から黄緑色に退色したリング状の斑紋を生じる。斑紋の外側はやや凹んで中心部が盛り上がったようになる。リング状斑は葉肉の細胞が壊死すると褐色から黒褐色になるか、多重のリング状斑になる場合もある。また、激しく発病すると、やや大形の不整形な黒褐色斑紋と淡黄色から黄緑色の斑紋が混在し、時として赤紫味を帯びる事もあり、リング状斑紋が確認できない事もある。
 カトレアの場合品種間の病徴の差が大きく、リング状斑をほとんど伴うことなく淡黄色から黄緑色の不整形な斑紋が現れる(上の二枚)だけや葉にほとんど病徴が生じない場合いもある。 
 病原菌はオドントグロッサムリングスッポトウイルス(ORSV)とタバコモザイクウイルス(TMV‐O)とされているが、ほとんど同じものか、いくつかの系統があるものと考えられている。
 汁液伝染しやすいため刃物の使用や人間の手、害虫などにより伝播される。ほかに感染した株の鉢底から流出した水によっても感染する可能性がある。
 このウイルスは非常に寿命が長く、汁液の状態で10年たっても病原性があり、非常に安定しているので充分な注意が必要である。寄生主はカトレアのほかにシンビジウム、ファレノプシス、オドントグロッサムなどラン科植物に広く感染する。
カトレヤ、ウイルスによるえそ病、軽い症状の時は拡大鏡などで観察すると、脈に沿った白っぽい陥没した小さな斑点が確認される。病状が進み花弁の細胞の崩壊が激しくなると白っぽいやや細長く細かい退色斑紋となり、とくに萼片は脈に沿った白っぽいやや不連続な表面の凹んだ筋模様状になることが多い。
 品種により開花時にはまったく病徴が見られないが、開花3〜7日後あたりから、花弁や萼片に淡黄色から黒褐色のえそ斑を生じることがある。この斑紋も品種により差があり脈に沿って花全体に生じたり、花弁や萼片の付け根に付近にのみ生じたりする場合もある。
 病原はシンビジウムモザイクウイルス(CyMV)であるが、カトレアの葉と花にえそを生じる系統は、それぞれ別系統であると考えられている。栽培管理に使用するハサミなどの刃物や手指などによって汁液感染する。ほかに感染した株の鉢底から流出した水によっても感染する可能性がある。寄生主はカトレアのほかにシンビジウム、デンドロビウム、バンダなどラン科植物に広く感染する。
カトレアの葉
 葉にぼんやりした淡黄色から黄緑色の斑紋を生じるが、きわめて不明瞭で判りにくい。葉が成熟してから黒褐色から紫黒褐色でやや不整形の斑紋が葉の内部から浮かび上がるような感じで現れる。ただし、葉肉の細胞が急速にに壊死して表面が凹むことはなく、古い病斑の表面が若干凹む程度で、病徴はこれ以上進行しない。
  病原菌はオドントグロッサムリングスッポトウイルス(ORSV)とタバコモザイクウイルス(TMV‐O)とされているが、ほとんど同じものか、いくつかの系統があるものと考えられている。   


シンビジウムの葉に出たモザイク病


リカステの葉に出たモザイク病、初期の段階
 葉に発生する。発生する品種・栽培条件・他の種類のウイルスとの複合感染などにより病徴が異なる。
 はじめ淡黄色から淡緑色の葉脈に沿った不連続な退色条斑や斑紋を生じ、時にはのちにやや拡大してモザイク模様となる。やがて病斑部は葉肉の細胞が壊死して、表面の凹んだ淡褐色から黒褐色の条斑や斑紋となる。病徴が激しい場合は葉脈に沿った帯状斑なるとなる。病斑は葉の裏面に多く、不整形な輪紋がみられることもある。
 病原はシンビジウムモザイクウイルス(CyMV)で汁液感染するため栽培管理で使用するハサミや手などによって伝搬されやすい。また、感染した株の根からウイルスが遊離するため、灌水時に鉢底から流出する水によっても伝搬される。寄生範囲は広く、葯40種に感染する事が知られる。
    
 カランセ(常緑種)の新葉に出たウイルス病、はじめに淡黄色から緑黄色の退色斑点や斑紋を生じ、のちに拡大して葉脈に沿った長い退色条斑となる。病斑の渇変は見られないが、葉が古くなると葉裏の葉脈に沿って凹んだ褐色斑点を生じることがある。病原はシンビジウムモザイクウイルス(CyMV)である。
    
 ファレノプシスの退緑輪紋病、トマト黄化えそウイルス(TSWV)による病徴
 最初の報告はアメリカで、葉に退緑輪紋を生ずるのが特徴であるが、のちに退緑部がえそ化 して灰白色になってくる。ウイルスの検出は難しく、病徴からはウイルスは検出されずに以前は生理的障害ではないかと言われていた時期もあった。国際園芸でも古くから出ていたが大量発生する わけではなく単発で出るので病徴がひどいものはその都度処分していた。
 新葉に最初、退緑斑点を生じ、次第に広がりながら幅の広い退緑輪紋となる。輪紋は不完全な輪であったり、隣接のものと融合して大きな変形輪となるものがある。 0910

 予防方法と対策
@ 栽培管理に使用する器具類、とくに刃物類は熱処理かリン酸三ナトリウムの飽和液(3%溶液)につけて消毒し汁液による伝染を予防する。熱処理の場合ライターであぶった程度では不充分であり、ガスバーナーの炎でよく焼くか、煮沸したお湯に十分つけることが必要である。パフィオペディラムなどのように手で株を割れるものはできるだけ刃物類は使わない、手の消毒は石鹸でよく洗う。
A 植え替えや株分けのときに多数の株を同一の容器内の水で洗浄しない。
B CyMVやORSVは感染した株の根から遊離するので、灌水時に鉢底から流出する水が他の株にかからないようにする。鉢は再利用するときは完全に消毒する、植込み材料は再利用しない。
C キュウリモザイクウイルス(CMV)やクローバ葉脈黄化ウイルス(CYVV)などはアブラムシなどの害虫により感染するので害虫の駆除を徹底する。
D 感染した株や疑わしい株は処分するか隔離して栽培する。本来は被害株は全て焼却する事が最善であるが、貴重な品種などは隔離し、感染防止策を万全にする事で栽培する。
E 茎頂培養(メリクロン苗)によるウイルスの除去は今のところ不可能であるが、ウイルスの濃度を下げる効果はあるので、病徴の見られない株を材料にして茎頂培養を行い、株の更新をする
F 被害株を母株として交配した場合は、完熟種子を播種する。
G ラン科植物以外からの感染にも注意する。

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