カレーライス(2007.3.16)


 
「金を払って、おもてで食べるのがカレーライス。自分の家で食べるのがライスカレー」。
とユーモアで言われたのは、
1981年、飛行機事故により、51歳の若さで亡くなった作家の向田邦子さんである。

私が小学生の頃、長崎県は佐世保市に住んでいた。
家で母が作るのは、自分ではカレーライスだと思いこんできた。

夕方、学校から帰ってきた次兄は、玄関の戸をガラガラと開けるなり、
「ただいまあー、母ちゃん、おー!今日はカレーやろーー!」と、大きな声で言った。
母:『あらー、ようわかったねえ。この子はほんて、鼻のようきくねえ・・・」
台所で、料理の手を止めてこちらを振り向き、にこにこして母はこたえていた。

玄関の戸を開けるなり、奥にある台所の夕餉の匂いが漂ってくる、そんなのんびりとした秋の夕暮れ。
その頃は祖母もまだ健在で、杖をつきながらではあったが、庭で落ち葉を集めて、煙をくゆらせていた。
やがて、食卓に家族が揃う頃、父も仕事から帰ってくる。
貧しくはあったが、実に牧歌的で、平和的で家庭的な我が家の風景であった。


【 落ち葉を掃き集め、落ち葉焚き 】

向田邦子さんが子どもの頃食べられたライスカレーも、私が子ども頃食った母のカレーライスも、
呼び方こそ違え、間違いなく家庭の味のするカレーである。

カレーという料理ひとつとっても、遠い子どもの頃の思い出が、ふっと浮かんでくるのである。
やさしかった母や、祖母の思い出とともに・・・・・


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