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(「たんぽぽ荘」十五−十六へ)
不定期連載小説

「たんぽぽ荘」



 −17.部長の反逆−

 「どうだ?うまいだろう」
先日のニンニクのスライス焦がし事件も忘却の彼方へと追いやったかのように爽やかな顔をした村止めさんが言う。
 「ええ。げほげほ」
例のレモネードは相変わらず僕の口には合わない。
 「うん。うまいな」
萱島さんはうまそうに飲んでいる。
 「今日のみんなの作品、どうだった?」
村止めさんが続けて聞く。
「ちょっとしか見なかったんでよくわからなかったんですけど田城さんの絵、すごくうまいですね」
「うん、あいつはうまいな」
 萱島さんが言う。
「漫画はあったか?」
 村止さんは真剣だ。
 「いや、なかったようですが・・」
「なかったな」萱島さんが答える。
「そう言われてみればなかったような・・」
「なかったな。そこなんだよ」村止めさんが乗り出す。
「漫研なのに漫画がない。漫画評論研究会なんだ。ここの漫研は」
前には言葉を濁していた事を今回は、はっきり言った。
僕を試していたのだろう。
 後で考えてみればプロのものであれアマチュアのものであれ批評しようが創作しようが漫画を研究する以上、漫画研究会なんだが、漫研は漫画の修行をする所と思いこんでいた僕はこの時の僕は何の疑問も持たなかった。
続けて村止さんが言う。
 「俺と田城と萱島で始めた漫研なんだが、いつの間にかこうなってしまった」
「そうそう」萱島さんが相づちを打つ。
「そこで俺は思っているんだが」
一呼吸おいて村止さんが言った。
「もう一つの漫研を作ろうと思う」
「どういう事ですか?」
「純粋に漫画を創作するクラブだよ。
 漫画の評論はあちらに任せる」
「やりましょう」
 この時僕は『これこそ漫研だ』と思った。
「まず顧問になってくれる先生を探す必要があるが、これには俺に心あたりがある。先生にお願いしてOKが出たら早速発足届けを出そう」
「今の漫研には何と言います?」
「そこは萱島の出番だ。こいつはみんなに一目置かれているからな」
「まかしておけ。うふふ」
萱島さんは自信がありそうだ。
 こうして現役の部長が新しいクラブを作って出て行くという前代未聞の反逆劇が始まるのだが漫研の本来のあり方という理想に目をくらまされた僕たちはそれが唯一正しい道だと信じていた。
話し合いの結果、クラブの名前は
 『創作同人誌研究会』
と言うことになった。
ちょっと固いがこの方がより活動内容を明確にできるだろうという事だ。
「先生に話がついて具体化してきたらまた知らせるよ」
この話は一旦ここで終わり、後は村止さん所蔵の漫画を読ませてもらってお開きになった。

−18.食費問題−

タンポポ荘の食費が問題になり始めたのは僕が入学して半年ほど経った頃だ。
食費が一日八百八十円、朝ご飯と夕ご飯の分だ。
朝は毎日みそ汁とのり、生卵一個と辛明太子三分の一。
 平日の夕食は日替わりで土曜日の夕食はカレーと決まっている。
 日曜祭日は、なし。
家賃は一月一万五千円だったが食費込みになると何故か一月三万八千八百円と決まっていた。
 これでは二月や五月など日数の少ない月や祭日のある月は一日あたりの食費が上がっている事になる。
言われなければ別に気にもならなかったが2年生の藤多さんがひょんな事から気にし始めた。
いや、前から気づいていたのだろうが黙っていたのだろう。
「変やと思わへんか?」
「そういわれればそうですねえ」
僕は藤多さんの部屋に遊びに行ったときに説明を受けてうなずいた。
紀村さんと尾野さん、それにあまり接触のなかった二年生の山口さんもこの時は一緒にいて相づちを打った。
その後この問題は彼らによって大家さんの所に持ち出され寮長によって扱われることになり、例によって赤峯さんの部屋で会議が行われた。
前で棚井さんが正座に腕組みをして言う。
 「前から問題になっている食費の問題なんだが・・」

やっぱり前から問題になっていたんだ・・
棚井さんの言葉で納得した。
 僕は半年もしてやっと、しかも先輩に言われて気づいたんだがやはりどうやらくすぶっていた問題らしい。

「確かにどんぶり勘定であることは間違いない。これは認める。しかし、俺たちはここのお世話になっているわけで・・」
立場上棚井さんは大家さんの側なので、苦しい言い訳をせざるを得ない。
「しかし、そやったら最初から話をしといてもらわんと納得いきませんわ」
藤多さんが言った。
「それはそうなんだが、大家さんもあの年齢だし、これまでずっとこれでやってきたんだから気を回すことはできなかったんだろう」
「そやったら、これから変えてもらわれへんやろか」
要約するとこういうやりとりなのだが、ああだこうだ意見が出てこの会合は一時間ほどに及んだ。
 結局最後には棚井さんが大家さんに日割り計算で請求してもらうことで落ち着いた。
大家さんも月ごとに計算するのは大変だろうが、一日の食費を八百八十円として説明していたから仕方がなかったのだろう。
程なくしてこの要求はのまれることになった。


(十九に続く)

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