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(「たんぽぽ荘」十三−十四へ)
不定期連載小説
「たんぽぽ荘」
- 15.空手部-
2年生の紀村さんと藤多さん尾野さんはすごく元気がいい。
時々夜になると大きな声で井植くんを呼ぶ。
車でどこかに遊びに行くらしい。
多分、バイトのお金が入ったか仕送りがあった時だろう。
こういう時僕は井植くんの隣の部屋なので息を殺してじっとしている。
何か変なところに連れて行かれると怖いからだ。
浅野くんは井植くんと仲がいいので何度か一緒に行ったこともあるようだが、どこに行っていたのかはその後も聞いたことはない。
お風呂事件のところで書いたが紀村さんは少林寺拳法をやっている。
藤多さんは空手部、尾野さんは野球部だ。
大体この皆さんはジャージ姿で行動している。
そしてそれぞれ車を持っていた。
この車でかわいい後輩を遊びに連れて行ってくれるわけだ。
さらに藤多さんはヤマハのパッソルというスクーターを持っていて、ジャージの上からどてらを着込んでサンダルばきでよく現れた。
僕は高校の一時期空手部に籍を置いていたことがあったのだが、このことで藤多さんに口が滑ったことがある。
空手部が新入部員を募集しているということを藤多さんが話したときだ。
「僕、高校の時空手部にいましたよ」
藤多さんの目が光った。
「なに。そうか」
しまったとは思ったが、何故かもう一度言ってしまった。
「空手部にいたんですよ」
実は高校の三年間、空手部に在籍はしていたが練習したのは最初の三ヶ月ほどだ。
その間メインの練習はランニングと柔軟体操をしていたわけで、空手といっても正拳突きを一日に百五十回ずつくらいしていただろうか。
最初は高い空手着も買って気合いだけは入っていた。
でもそのうちきつくなり、幾人かの先輩方が練習に来なくなったので僕も行かなくなった。
正直きつかったし。
「で、何段だ?」 藤多さんが聞く。
「段はとってません」
「ああ、そうかそうか」
藤多さんは優しく笑ってその後この話はしなかった。
どうやら根性なしが見抜かれたらしい。
藤多さんが物わかりのいい人で助かったのだが、このときはちょっと寂しかった。
-16・原稿-
漫研の集まりは例によって毎週土曜日に行われている。
同人誌の原稿もおおむね集まり、編集の黒川さんも忙しくなってきた。
僕は二ページの漫画を二作品提出した。
一つはどこかの研究室で何かを研究している女性がセクハラ教授の頭をかち割る話。
もう一つは製薬会社の社員が怪しげな研究者に依頼していた超人になる薬を断りに行く話。
「暗っ!」「しょーもなー」
先輩方の感想は結構率直で厳しかった。
悔しかったが本当だ。
自分でみても絵が暗い。話も単純だ。
皆さんどんな作品を載せるのか?
悔しさ紛れに他の人の原稿をのぞき込もうとした。
「・・・」
ちらっと見えた原稿にはイラストと手書きの文字が見えた。
うまい。
当時人気のあった弓月光先生の絵によく似たイラストが見えた。
線が細く、迷いがない。きれいにまとめられた絵だ。
「うまいですねえ・・」僕は思わずつぶやいた。さすが漫研だ。
イラストの作者は田城さん。経営工学科の4年生だ。
弓月先生と高橋留美子先生のファンのようで、両先生の作品に詳しい。
ところで漫画は?
僕は新入生なので先輩の作品を検閲するようなことはできないので、感心するふりをして漫画を探した。
無造作に置かれた作品のうち僕がみることのできた原稿は、文章とイラストのものばかりだった。
きっとまだ出してないんだろうな。
そんなことを考えながら僕は「なるほどなるほど」とつぶやいて原稿を元の床に返す。
「編集は俺と田城さんとでやるから楽しみに待っていろよな」
黒川さんが言って会合は終わった。
「おい」
集まりの後村止さんと萱島さんが近づいてきた。
部活の後の萱島さんはすごく愛想のいい人だ。と言うより、みんなの前では出遅れて会話に加われなかっただけなのかもしれない。なつっこい笑顔で話しかけてくる。
「今から村止のところに行こう」
「はい」
先輩二人の誘いだ。断る理由もない。
僕は歩き、村止さんはベルーガに乗り、萱島さんは自転車で例の下宿へと向かった。
(十七に続く)
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