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(「たんぽぽ荘」五、六へ)
不定期連載小説
「たんぽぽ荘」
-7.部活-
漫研の初会合は次の土曜日、我がたんぽぽ荘にほど近い二階建ての木造アパートで行われた。
部屋は一階の角、六畳間で、この部屋のあるじは商経学科2年生の黒川さん。
恰幅のいいもの柔らかな先輩だ。
部屋には本格的に彩色されたプラモがいっぱいあった。
例によって自己紹介があり、自分の好きな漫画家や作家とその作品についての話が始まる。
「おお、さすが漫研!」
僕は感激した。
「おい、今度のめぞん買ったか?」
「おお、買ったぞ。あの二人どうなるんだろうな。」
誰かが高橋留美子先生のめぞん一刻の話題を出すと俄然皆さん熱が入る。
更に話は『うる星やつら』に発展し、東映の戦隊ものに行ったり、サンライズのアニメ『ザブングル』に移る。
「あの変形、凄いよな」
当時までは単純な変形や合体しかしなかったロボットが、ザブングルではちょっと複雑に変形する。
しかもロボットではなく戦闘”メカ”である。画期的だった。
その後僕らはマクロスの”バルキリー”に驚嘆するのであるが、この時はまだこの番組は始まっていなかった。
「冨野さん凄いよなあ。」
友達みたいに簡単に言うが、『ガンダム』『ザブングル』他多くの名作を手がけたアニメの有名監督である。
実はこの時僕は『ザブングル』を観ていなかった。
高知では放送していなかったからである。
「へえ、そうなんですか。」
なんだか知らない世界をかいま見て感動するばかりである。
「で、先輩はどんな漫画を描かれるんですか?」
話についていけない僕は唐突に質問する。
「いや、俺は漫画は描かないんだ。」
赤峯さんが答える。
「同人誌とか出さないんですか?」
「出すよ。」
やった!楽しみだ。
僕の心は躍った。
「お前は何か書くのか?」
赤峯さんが尋ねる。
「はい。暗いのを少々...」
「ほう、今度見せてくれ。」
「分かりました。」
こうは言ったが、高校時代に友達と描いた漫画はあったものの、内輪受けのものばかりでとても見せられるものではない。
帰ってさっそく新作に取りかかろうと僕は思った。
-8.ねくらと創作-
集まりはさらに続く。
当時は”ねくら”という言葉がはやっていて、後に言う”オタク”は根暗と混同されることが多かった。
明るいオタクもいるのだが..。
「お前が描く暗い漫画ってどんなのだ?」
赤峯さんが僕に尋ねた。
「ええ、そうですね。『魔太郎がくる』みたいな...」
突然の質問に、思いついた藤子不二雄先生の名作のタイトルを出してしまった。
「おお、こいつねくらだぞ。」
赤峯さんが喜ぶ。
僕はおとなしいので、ねくらを気取ってはいたのだが、根が暗いのとはちょっと違う。 みんなの注目を集めた僕はあわてて言った。 「いえ、その、違うんです。はは。」
この時以来僕はみんなに”ねくら”と思われてしまったようだ。
2時間ほど親睦と打ち合わせのための集まりが続くと、部長の村止さんが立ち上がった。 村止さんは明るくていい人だ。
集まりの間、大はしゃぎで場を盛り上げようとしていたので僕はこの人にポジティブな印象を持っていた。
「よし、今日はこれくらいにしよう。
今度の土曜までに同人誌の企画を考えてきてくれ。」
解散後、村止さんが僕を追いかけてきた。 「おい、お前、漫画描くんだって?」
「はい。」
漫研なんだから当たり前では?と不思議に思いつつ答える。
「お前、今日の集まりどう思う?」
「えっ?」
僕はちょっとびっくりした。
「何だか違うだろ?」
「そうですね。」
僕は相づちはうったが、ちょっと意味をつかみかねた。
「なんかこう、漫研って感じじゃないだろう?」
「ええ...」
なにぶん僕は漫研と言うものに初めて接するので、そういうものかな?と思っていた。 何かが違うんだろう。
「創作するって感じじゃないだろう?」
思案気味の僕に村止さんは更に言う。
「そうですねえ。」
この時はよく分からなかったのだが、後になって考えると、要するにこの時村止さんはこういいたかったのだろう。
「ここの漫研は、漫画の評論をすることが主目的で、創作活動はあまり行わないんだ。」
「今度俺の部屋に来ないか?その時描いた漫画持って来いよ。」
「分かりました。」
何だかよく分からない展開だったが、部長の誘いだ。僕はすぐに応じた。
(九に続く)
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