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(「たんぽぽ荘」二十へ)
不定期連載小説
「たんぽぽ荘」
−21.謎の関係−
村止さんは三年生、田城さんは四年生だ。
最初はなぜ村止さんが田城さんのことを呼び捨てにするのかがわからなかったが、僕が怪訝な顔をしているのに気づいたのかしばらくして村止めさんが説明してくれた。
「俺はね。二年から三年に移るときに転科したんだよ」
「転科ですか?」
聞き慣れない言葉に僕は聞き返した。
「そう、工業化学科から経営工学科にね」 「へえ、そんなことができるんですか」
「できるよ。でもそのまま三年にあがることはできないんだ。
二年を新しい学科でもう一度やる必要がある」
「へえ、そうなんですか」
田城さんは商経学科でどちらの出身地も違うのでどういう接点で知り合ったのかわからないが、同い年で最初はとても仲が良かったようだ。
意気投合した二人は工業化学科で一緒だった萱島さんを巻き込んで漫画研究会を立ち上げた。
しかしマイナーではあるが実力派の作家を好む村止さんとメジャーではあるが一般受けの作家を好む田城さんとは少しずつ溝が深まってしまった。
部員が増えてくるとメジャー派が多くなり、部の雰囲気は当時はやりの”ミーハー”になっていく。
そんな流れの中で今回の同人誌の企画が立ち上がったというわけだ。
僕のマイナーな作品が「暗あー」とか「しょうもなー」とかいう評価を受けたのも無理もなかった。
当時のくそまじめで考え込むタイプの僕とその作風は、どちらかといえば村止さんと合っていた。
僕も村止さんには親近感を抱いていたし、漫画も読ませてもらえるので村止さんの下宿にはよく通った。
そして通ううちに部に対する不満とともに新しく立ち上げる予定の『創作同人誌研究会』にかける夢を語りあうようになった。
しかし実際に部を立ち上げて対立が表面化するまでにはまだ少しの間がある。
−22.文化祭の企画−
夏休みが終わって同人誌ができあがるとそろそろ文化祭の準備が始まる。
展示物の作成や出し物の企画、ポスター作りなど、やることはたくさんあった。
「みんな展示するイラストを早めに出すように」 田城さんの号令がかかる。
イラストと聞いて正直僕はとまどった。
オリジナルの漫画しか書いてこなかった僕にとってイラストというのは正直未知の世界だったからだ。
確かに自作漫画の表紙絵くらいは描いたことがある。
しかしプロの作品をモチーフにした高水準のイラストが集まるであろう漫研の展示物に混じって自分のオリジナルが並ぶのは絶対違和感がある。
でもその種の絵は描いたことがない。自信がない。
僕は大いに悩んだ末、画用紙に絵の具で草原を走るアニメのキャラっぽい少女の絵を一枚描いた。
もちろんオリジナルだ。
「これ、だれ?」
そっけない質問を投げかけたきり漫研の皆さんは自分の作品の説明に励む。
期待していた結果ではあったが、なんだか寂しかった。
この辺りから僕は村止めさんの主張に理解を示すようになる。
いいとか悪いとかの問題ではなく、この集団とは毛色が違うというか、系統が違うというか、そんな感じが次第にしてきたのだ。
(二三に続く)
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