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(「たんぽぽ荘」十七−十八へ)
不定期連載小説

「たんぽぽ荘」



 −19.ナポレオンと墓場−

 
 このころ僕たちは田辺くんの部屋に集まるようになっていた。
 そして毎日夕食後にはまっていたのは『ナポレオン』というトランプゲームだ。
 このゲームはルールが少し複雑だが、覚えてしまうとすごく面白い。
 おおまかに言うとナポレオンチームと平民チームに分かれて絵札を取り合う。
 メンバーは四人ないし五人必要で、いつものメンバーは僕と田辺、浅本、浅野、宝来くん。
 時々宝来くんの代わりに田中くんが加わった。
ゲーム自体は浅本が持ち込んだものだが、あっという間に花札の地位を奪ってしまった。
毎晩集まってこたつに入り、砂糖とクリープをたっぷり入れたインスタントコーヒーをすすりながら”マイティ”(ナポレオンをこう呼んでいた)をやるのが一日の楽しみだった。

これもまた若さにまかせて白熱する。
ああだこうだ言いながらあっという間に深夜まで”マイティ”を続ける。
その割に徹夜は二回ほどしかしなかった。
 毎日の事なので体力が続かなかったのだ。
 部屋の主である田辺くんはかわいそうなもので、みんなが盛り上がっている横で力尽きてよく眠っていた。

そのうち新ルールができた。
 トータルで負けたチームは近くのお店に、みんなの分のお菓子を買いに行くのだ。
 このお店は『つたや』というお店で、おばあさんが一人でやっていた。
 当時としては珍しく夜中の十二時まで開いている。

 午後十一時四十五分くらいまでで集計し、下位の二人が買いに行く。
 歩いて十分くらいかかるから結構スリリングだ。
 おまけに途中に墓地があってとても恐ろしいのだが、十分で行くには回り道はしていられない。
このルールのおかげで、”マイティ”は最高に白熱した。

負けると、店の閉店時間が気になるのと夜道の恐ろしさから夜の墓場を小走りで走る。
ひたひたと前を行く相棒の後ろ姿がとても怖い。

突然そいつが後ろを振り向いたら違う顔だった・・・

 とか、どうしても変な想像をしてしまう。
前を行くときは前方の暗闇と静けさがとても恐ろしい。

 突然後ろのやつが覆い被さってきたら・・

 とか想像したら腰の力が抜けてくる。

かといって道が狭いから横には並べない。

夜な夜な墓場を駆け抜ける若者たち・・
 後で考えればとてもおかしいのだが、当時の僕たちにとっては怖くても楽しいイベントだった。
いや、生きているだけで何をやってもどうしようもなく楽しかったのだ。

−20.同人誌『歯車』−


そのうち夏休みがやってきた。
 この間に黒川さんが地元の印刷屋さんとかけあって同人誌を印刷、完成させる事になっていた。
僕は自分の作品が初めて印刷物になるのが楽しみで心待ちにしていた。
 印刷の予算は大体十万円ぐらい。
100部ほど刷る事になっていた。
 わずかな部費と部員のカンパ。
 それに先輩方のバイトによる補填で何とか形になった。
後で考えてみると黒川さんや田城さんの涙ぐましい努力があったのだろう。

 夏休み明けの会合では同人誌が仕上がっていた。
タイトルは『歯車』
青い表紙にタイトルとザブングルのイラストが印刷されている。
僕は息をのんでこれを手に取った。
きちんとした印刷屋さんで印刷された同人誌というものを初めて見たからだ。
ページをめくる。
田城さんのイラストが目に飛び込んできた。
やっぱりうまい。きれいだ。
記事は当時封切られていた『ガンダム』の映画についての感想だったのだが、そこに載せられているイラストがうまかった。
さすが田城さんだなと思いつつ次をめくると黒川さんの作品。
 ロボットアニメに出てくる”パワードスーツ”についての考察が記されている。
 メカおたくの黒川さんだけあって含蓄の深い事が書かれていた。
 あとみんなのイラストが続いて最後の方に僕の作品。
オリジナルではあるが暗くて地味なので貴重な紙面をさいて載せてくれただけでも嬉しかった。

この冊子は今度の文化祭で展示販売することになっていた。
印刷代に一冊あたり千円かかっている。
 原価で売るので利益は出ないが、少しでも出費を取り戻さねばならない。
 みんな興奮していた。
 が、二人ほどさめた目で見ている人がいた。 部長の村止さんと萱島さんだ。
先日僕に持ちかけた計画があるだけに手放しでは喜べないのだろう。
同人誌をもう一度よくみると、村止さんのイラストは一番最後に2枚載せられていた。
 52頁の同人誌のうち18頁が田城さんと黒川さんの作品。
 しかもこの二人の作品は同人誌の最初の方を占めている。
これではまあ、面白くないだろう。

この時僕はクラブの複雑な人間関係を見てしまったような気がした。
二一に続く

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