看護師の内診は違法か
@看護師が助産業務を行う事は許されていない。
A内診は助産行為である。
B内診を行った看護師およびそれを指示した医師は違法行為をした事になる。
C医師自らが内診を行ったのなら違法ではない。看護師にそれをさせた事 が違法なのである。
Dこれを指示した医師には保健師助産師看護師法(以下保助看法という)30条の違反が適用される。
以上が医師が法を犯したという論旨である。
完璧な理論構成と見える。だが果たしてそうか。
以下検証して行く。
1.
看護師の業務と助産師の業務
吸引分娩の際、医師がカップをかけて児頭を引く。その時看護師が会陰保護をしたら違法となるか。バルトリン腺腫瘍の手術で会陰部の皮膚を看護師がひっぱるといった事との違いは。帝王切開の際の鈎引きを看護師が行なう事は違法か。子宮筋腫の手術なら看護師が入ってもいいが帝王切開には入ってはいけないという事になるか。全ての産科医療は助産の要素が含まれる為、医師と助産師のみしか参入出来ないか。いや帝王切開は助産ではない、手術である。吸引分娩は助産であるから会陰保護はいけない。などという事が言えるか。医療機関内に置いて看護師業務と助産師業務の法的な区分けが出来るか。産科医療と助産との違いの線引きが可能だろうか。
ここで助産の定義が必要となる。
2.助産の定義
助産という用語は「出産の手助け」と定義される。では出産という用語は「胎児およびその付属物を母体から完全に排出、または娩出することをいう」と定義されている。さらに分娩は正常分娩と異常分娩とに分類される。そして助産とは正常と異常の両者を含んだ分娩を補助する業務であるとみなされる。有体に言えば正常分娩を扱う助産は医療ではなく、異常分娩を扱う助産は医療である。法的には2種類の助産というものがある。助産師の扱う助産は医療行為を含まない正常分娩のみであり、これは保助看法下に置かれる。一方医師の取り扱う助産は異常分娩であってこれは医療であり、医師法下に置かれる。
3.非医療助産と有医療助産
さて助産の定義が出来た。助産を法的な扱いにおいて2種に分類した事が大事である。便宜的に非医療助産と有医療助産と名付ける。行なわれている助産が非医療助産なのか有医療助産なのかにより法的扱いが全く異なって来る。
非医療助産の方から見て行く。これは助産師が扱う。保助看法下に置かれる。看護師がこの業を行なう事は出来ない。
一方、有医療助産は医師が行い、医師法下に置かれ、看護師がこれに参入する事は許される。
助産とされるある行為が同一行為であっても非医療助産にとして行なわれた行為なのか有医療助産として行なわれた行為なのかにより法的解釈が違って来る。一方の場面では違法、一方の場面では違法でない。
法の目で肝心なのはそこで行なわれた助産が非医療助産なのか有医療助産なのかの一点にかかって来る。
保助看法下で助産師があつかう助産については論議の必要はない。問題なのは医療機関で扱われる助産の法的解釈である。正真正銘の異常分娩は医師法下におかれるのでこれは問題ない。では医療機関で正常分娩を扱うときの法的解釈はどうなるか。ここが問題となる。
4.医療機関での正常分娩
@
正常分娩も異常分娩と同様に有医療助産と解する。
A
正常分娩は非医療助産として取り扱う。
の2通りの見方が出来る。
@
の解釈ならこれは医療行為であり、医療行為なら看護師は医療の補助を行なう事が出来る。看護師が医師の指示下で内診を行なう事は違法ではない。
A
と解釈するならこの分娩は保助看法下に置かれる。この分娩に関して看護師が内診を行なう事は違法である。
しかしAと解釈すると、非医療助産と定義したからここには医療は存在しない。医療が存在しないものは医師法下に置かれない。医師法下に置かれていない行為は保助看法30条の後段の文章が無効になる。医師はこの分娩を扱ってはならない。正常分娩を扱う為には医師も助産師免許の取得が必要である。それとも医師免許取得時点で助産師免許を取得し得たと解釈出来るか。保助看法に医師に助産師資格を与えるという文章は無い。産婦人科医はもう一度助産師学校に行き助産師免許を取らなければならない。医師が助産を扱う事が出来る法的根拠は医師法下では保助看法30条は無視出来るという条項からである。医師法下に無ければ医師は助産を扱う事が出来ない。
5.医師が正常分娩を扱ってよいという法的根拠
では医療機関で取り扱われる正常分娩を医療と定義出来るか。出来る。これは純然たる医療である。予防医療と解釈される。正常に進んでいく分娩を側で見守り、異常を見つければ直ちに処置を行なう。最終的に何も異常が起きなかった場合でもこれは医療である。
6.
結論
看護師に指示した内診が違法ならそれは非医療助産下にある事となり、その分娩を医師が取り扱う事も違法である。
医師が看護師に指示した内診は有医療助産であるので医師法下におかれ、その行為は医療の補助であり違法性はない。