オケラのたわごと

昼過ぎの会社での事


「ジィ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

何処からか、聴きなれない異音が聞こえてきた。

「ジィ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

       音源は居室の照明用分電盤の継電器(リレー)だったらしい。

「ジィ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

            ふと、子供の頃に聴いた憶えのある、或る虫の鳴き声を思い出した。

「ジィ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

              ある初秋の夕時。庭の茂みの先から、その虫の鳴き声が聴こえてきた。
    「ミミズが鳴いているよ〜」 と誰かの声
               「あれは、けらの鳴き声さ」と幼い つん (私)のつぶやき。

「ジィ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

あれから何十年経っただろうか。
        グローブの様に肥大した前足を持ったオケラ。
             小学生だった つん。夜、部屋の灯りめがけて飛んできたオケラを捕まえて
          遊んだこともあった。しかし、あれから後に一度も会うこと無かったね。

     「ジィ・・・・   」 「    」「   」 不意に聴こえなくなった。
        想い出が途切れ、振り返ると電気工事のおじさんの姿が見えた。
   分電盤の修理が終わったようだ、つん も仕事の再開だ。

もぐらこおろぎ   サトウハチロー


  どこかで こおろぎ ないてるね  さみしい こえだね ひとりだね
こんやも ゆどのに いるんだね  そうだろ こんやも さむいもの

もぐらこおろぎ しってるかい  えんまこおろぎと ちがうのかい
おかしな虫の べつの名だ  おけらのことだよ ゆかいだろ

おけらが もぐらこおろぎかい  だれがつけたの いい名だね
うまいじゃないか ほんとにさ  西洋人が つけたのさ

    おどけたすがたを してるけど  さみしいこえして なくんだね
おどけているから 夜中など  かえって さみしくなるんだろ



   つ ん
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