太巻き寿司
或る日、太巻き寿司を見ているうち幼い日を思い出した。
日曜日、昼飯に食べようと太巻き寿司を買ってきた。
太巻き寿司を食べるのは久しぶりである。
今、目の前に在る太巻き寿司に入っているのは
玉子焼きに甘辛煮の高野豆腐と干瓢
そしてデンブに細切の胡瓜と云ったところだ。
巻き物の中身には自己を強く主張する、
具材など入ってないのである。
いわば万人の口に合うような食材だけが
無難な味に調理され入っているのである。
昔、年に数度、家で太巻き寿司が作られた。
その寿司には紅生姜の細切やピンク色したデンブと一緒に
干瓢や人参、牛蒡の煮た物が具として入っていた。
子供の頃、味や香りに癖のある野菜が嫌いだった。
当然、人参、牛蒡も嫌いだった。
或る時、手に持った太巻き寿司の中から嫌いな
人参、牛蒡を箸先で押出した後、食べていた。
そして、それが親に見つかり激しく叱られ、
抜出した人参、牛蒡を泣く泣く食べた記憶がある。
然し不思議なものである。あれだけ嫌いだった野菜類、
今では結構、好きなのである。牛蒡など、
天麩羅やキンピラで無性に食べたくなる時がある。
いったい、どうゆう事なのだろうか?
歳と共に食の好みなどが変ってくるということであろうか。
それにしても、あの日あの時、親に叱られることも無く
あのまま、食べていなかったなら ・・・。
牛蒡も人参も未だ食べず嫌いのままで
いるのではないか ・・・ と太巻き寿司を
みながら、ふと ・・・ 思ったのである。