野茨(ノイバラ)
立夏も過ぎた或る日。数日ぶりに雲も切れ、朝から晴れ渡った。谷戸にあるマンションから、小道を歩き崖に沿った石段をくだる。踊り場まできて、崖から生える丸葉空木の花に気を取られ、見上げれば頭上に野ばらの花があるのに気づいた。
卯の花の白妙に茨の花の咲そいて、雪にもこゆるこゝちぞする。・ ・ ・ と、芭蕉さんが云っていたように、空木(卯の花)と茨は、三百年後の今でも、季節をたがえず咲き競っている。
「 愁いつゝ 岡に登れば 花いばら 」 与謝蕪村