真弓

　何年か前の話である。大晦日の朝のこと、財布の残金が千円だった。これでは年越しできぬと、九時のＡＴＭ稼働開始時間を待って、近くの郵貯に行った。
　お財布に何枚かの万札を収めて、少しホットし、その足で散歩に出掛けた。行き先は、何時もの散歩コース ”ふじやま公園”だ。

　坂を登り古民家の前を通ると、長屋門の脇には立派な門松が飾り立ててあった。更に進み公園の丘の上に登ろうとした時、寒紅梅の様なものが眼に入った。
　近づいてよく観れば、それは大きな真弓の樹だった。真弓は枝いっぱいに実を付け、遠目には花の咲いた様に見えた。
　青空のもと、丘の上にある真弓の枝越しに見る富士山は素晴らしかった。

　立ち尽くし眺める、富士や丹沢の山々・・・。
ふと、耳もとで風が鳴った。

　　「　まゆみの実見よと促す人もなく　」　　　　高澤良一