桑(クワ)
朝から、むしむしと湿度の高い中、少しばかり近所の川沿いを散歩。歩き始めて間もなく、10分も経てば額から汗が吹き出てきた。汗のため背中にまとわり付いたTシャツも不愉快な感じとなり、涼を求めて川岸に寄り、風のそよぎを待つ。 しばらく歩いた所で、空き地を隔てる生垣の脇に、ある懐かしいものを眼にした。それは一見、毛虫にも似た形の赤や黒紫の色をした木の実だった。 幼い頃、故郷で郊外に広がる桑畑は普通に眼にする風景だった。貧しい時代、桑の実は遊びの途中で、子供達が”おやつ”替わりに口にする食べ物だった。 口の中を紫色に染め、ポケットに入れた桑の実から染み出た汁でズボンを汚し、親に怒られたことなど懐かしい思い出だ。
「 黒く又赤し桑の実なつかしき 」 高野素十