鉄線(テッセン)
大きくカーブしながら下って行く坂道の中ほどで、雨に濡れた生垣に大きな花をつけた奴が絡んでいた。六枚の花弁と針金の様な茎を持ったクレマチスだ。
私はこの花を観て、ある男を思い出した。あれは、30年も昔のこと。ほんの数年、一緒に仕事をした知人だった。自ら死を選んだ男が逝ってから、すでに20数年。あのころ通勤途上で眼にし、ふかく記憶にある花だ。
「 鉄線の 初花雨に あそぶなり 」 飴山實