その狛犬は藤沢市江ノ島の海岸洞窟内の龍神を祀る柵で囲まれた六畳程の小空間にある。
知られているわりには写真撮影の条件が悪く今まで注目を浴びてこなかった。
小さな蝋燭を頼りに巡路を辿る。
照明は燈明台からの弱い光りで火袋のデザインは鎌倉北条氏の三つ鱗紋と同じである。
「江ノ島縁起」の記述にある北条時政の江島明神祈願との関連があるのかも知れない。
享録年間1530年頃に編纂された「相模風土記稿江島明神縁起」に海岸洞窟について次の記述がある。「石観音、石獅子を置く此二物空海唐土より将来せしと云う此獅子異形なり戸を守る相あり」と。
確かに異相である。写真で見るとよりその感が強まる。直感的に「人魚(ジンイオ)の狛犬」ではないかと思った。
理由は龍神が海を司る神であること。故に神使も海中生物の可能性があること。
東洋の人魚は西洋のイメージとは異なりかなり醜悪であること。
中国の「仙海経」に曰く人魚の形はナマズに似て四つ足で人間の赤子のように鳴く、肘に赤いタテガミがある。また顔は猿に似て歯は細かい魚の歯で耳は兎のようであるとの記述もある。
それから吽像の子獅子はどう見ても脊椎動物には見えないし阿像が持つ飾り紐付き珠は「古事記」にある干満を司る竜宮の宝物「潮満瓊潮涸瓊」の宝珠の可能性もありそうだ。
柵があり自由に見れないこともありミステリアスな狛犬である。
そこで一句
「龍神の岩屋を護る闇の犬」
アンクル及川 2003年36号より
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