狛犬紀行・11   三宅稜威夫
心を癒してくれる赤坂氷川神社のたたずまい
勝海舟の屋敷跡(二カ所)をみたあと氷川坂をのぼると赤坂氷川神社がある。
シンプルな社殿、木立にかこまれた静寂な境内は訪れるたびごとに心を癒してくれる。「一ツ木」にあった小さな祠を八代将軍吉宗が移し社殿を建立させたという。
かってこの地は三次浅野藩の中屋敷跡であった。
この藩は赤穂事件でおなじみの内匠頭正室、瑶泉院(ようぜいいん)の実家である。
瑶泉院は夫なきあと一切の始末をきちんとつけ、この地で亡夫の菩提をとむらいつつ四十三才の人生を閉じた。
境内に六対の狛犬がある。
それぞれ時代、タイプはちがうがいづれも印象に残る狛犬だ。
中でも楼門前にある狛犬は
延宝3年(1675・四代家綱時代)の作、江戸狛犬では五指に入る古さだ。はじめてみたとき、大型カブトの幼虫を連想した。
橋本万平先生説によると
庶民寄進第一号とのこと。
神社建立は享保、狛犬作年は延宝、狛犬の方が50年先輩ということになる。
おそらく「一ツ木」にあった祠とともに移転されたと思われる。
赤坂は坂が多い所である。
狛犬と同時に、江戸と近現代史の足跡を訪ねるとなかなかに興味深い。

1999年14号より

(写真;阿由葉)