半僧坊大権現の堂宇、鎌倉・建長寺の祈祷所。緩急約三百段の石段を上った高台にあり、参道沿いに明治建立の2対と平成建立の3対の狛犬が鎮座している。
これは明治37年1月に奉納された子連れの狛犬。(藤沢 石工 廣田仲太郎) 口を開けているように見えるが吽像で、顔全体が壊されていた。 いたずらにしては度を超している。 前足を耳に当てれば、E・ムンクの画『叫び』に似ている。 ムンクの画は叫びに耐えかねた男が耳を押さえている姿だが、<顔無し狛犬>は悲痛な叫びをあげ続けているようだ。阿像は無キズだが、奉納者らの気持は察っしてあまりある。
境内には明治26年12月奉納の狛犬がいる。(写真上) おかっぱ頭で蹲踞の姿。 眼下に広がる新緑の中に12体のカラス天狗像が見える。 堂宇は明治23年5月の創建。 「半僧坊」の御託宣により建長寺内で最も景色の勝れた「勝上?」にある。 境内はハイキングコースになっており、私が訪れた6月8日は雨にもかかわらず多くの人たちが狛犬の横を通り過ぎて行った。
家族の病気平癒を願って訪れた女性がいた。 今は故人となった父親が事業の成功などに感謝して平成5年5月に一対の狛犬を奉納したと言う。(写真上) 狛犬にいつも父親の姿を投影させて見ているそうだ。 彼女らと一緒に祈祷を受けた。 私は〈顔無し狛犬〉を脳裏に浮かべながら禅僧の読経に耳を傾けていた。
2011年84号より 写真;斉藤・阿由葉