細い道を歩いていて、ちょっと振り返り「どうぞお先に」(写真右下)と言って後ろの人を前に進める… そんな感じのする狛犬だ。 伊豆・下田の白濱神社。 狛犬は拝殿前の石段両側のいわゆる耳石の先端にいる。 阿像は立ち上がり、吽像はやや腰をかがめた姿勢。 体長はともに約35センチ。 「願主 下田石工 小川清助 萬延元年(1860)」「願主 當村 世話人中」と、ミニ石柱に刻字されている。 白濱神社には他の石工の、昭和11年と寛政12年(1800)制作の狛犬が鎮座しているが、清助の小さな狛犬は、参拝客を歓迎しているように見える。
下田行は今年8月25日、1年ぶりだ。 「ペリー」のことを調べている郷土史家に同道したものだが、私の目的は小川清助(1832〜1880)の狛犬。 伊豆南部で活躍した石工で、清助の名は江戸時代の延宝年間から明治初期まで約200年にわたって世襲されていたという。 くだんの清助の作品は造形に優れ、石段狛犬の巻き毛等も微妙にデザインされている。
ペリーの下田上陸は嘉永7年(安政元年=1854)。 清助が20代の時だ。 石工という一職人であっても、<ペリー騒動><時代の変わり目>に心穏やかでいられたはずはなかろう。 「伊豆ノ国 最古の宮」に奉納した狛犬は小さいが、その中に、清助の何か<でっかい想い>が込められている気がしてならない。 2010年80号より