あ∽うん  斎藤 良夫
参道から神殿狛犬へ

         社殿に入ると外陣というか相の間というか、そこに石段があり、
       さらに内陣の石段を上った奥に狛犬は鎮座し、ぼんぼりに照らし出されている。
            うっかりすると、その姿を見落としてしまいそうだ。

             西伊豆の静岡県松崎町の伊那下神社(森清人宮司)。

西伊豆の静岡県松崎町の伊那下神社(森清人宮司)。
狛犬は室内にあってもれきっとした石造。
顔は鍾馗のように毛むくじゃらで、尾は豊か。
阿像には角が、吽像には宝珠がある。
台座に「
文政元年(1818)九月 濱邨 舩頭 長兵衛」「彫工 安良里邨 徳三郎」の刻字。

社殿の奥深くに、なぜ石造狛犬が?

伊那下神社の古い絵葉書がある。
そこに写っている
狛犬は外にある
絵葉書の傍らに、
「社殿は江戸時代、囲いが昭和。本殿がいたんだので上屋を作った」の文字。
森宮司の祖父のメモ書きだ。

つまり、
古い社殿をまるごと新しい社(やしろ)で囲ってしまったのだ。
祖父のメモ帖によると、石材は「安良里産」。

加えて、石造狛犬のもう一段あがった奥の神座の前に、小ぶりの木造狛犬がある。
「享保年中(1716〜1736)寄附 寶暦庚辰(1760)仲春
修覆 江戸四ケ町明石屋与左衛門寄附」。
この記述から、伊豆と江戸との海上交流がうかがえる。

         
          石造狛犬の石肌はすべすべしていた。
          半世紀以上も風雨にさらされていないためだ。
          その無骨な容姿とのミスマッチに、不思議な感慨を覚えた。

2009年74号より