〜大塚康生さんの50年前の写真…上野公園にあった狛犬
古い狛犬の写真にはとても興味が引かれます。 大塚康生さんから狛犬を撮した古い写真を見せていただき、その当時のことをお聞きしました。
『昭和32年9月山口県から上京して来た私は、山口で見た狛犬と東京で見る狛犬との迫力の違いに驚いて、日曜日には出来るだけ神社を見て回ったものでした。 明らかに石工達の技量の違いが読み取れたからです。 上野東照宮ではそれまでに獅子山があったのか、参道に入り口付近(現在バラ園があるあたり)に散乱する石材に混じって、2頭の獅子が地面に下ろされて置かれていました。 子供が乗ったりしたら危ないと思ったりしましたが、その辺りには親子ずれは滅多に入って来なくて、迫力のある正面の狛犬付近にも人影はありませんでした。 工事中だったのでしょうか、神社本体も拝観・参拝禁止でした。 その頃撮影した多くのネガは失われてしまったのですが、唯一この画像が50年前の雰囲気を伝えています。』
ところが、この写真を鑑定した山田敏春さんは意外な事実を発見しました。 それは、この獅子が現在の神田明神の獅子山の獅子そのものだと。
神田明神の獅子山は文久2年に奉納され、関東大震災により倒壊。 その際子獅子は紛失したものの、親獅子2頭は保存され、平成2年に再建された獅子山に据えられました。(写真左:阿由葉) この写真から『尾の巻き毛の頂点が2個所欠けていること、後方へ延びた2本の毛束のうち上の毛束の先が少し欠けていること。 この3個所の破損部分が神田明神の獅子山の尾と一致します。 また、鼻を含む上唇部分の亀裂も同じ位置にあります。』 これらのことから、戦後の神田明神の復旧工事の都合で疎開していたのではないかと思われます。 いきさつはともかく、関東大震災で崩れた獅子山が再建されるまでに67年もの歳月が経っていますが、その間の何年かは上野東照宮付近にいたわけです。 そんな歴史の一幕に出会ってシャッターを押したのが若き日の大塚康生さんだった訳です。