江戸子獅子物語(6)
六子狛犬 〜 磐井神社(大田区大森北町)
犬は安産多産で知られるが、狛犬はどうであろうか。
一子二子は多く見られるが、三子四子は少なく、五子は無く、六子ともなれば稀である。
国道15号線に面した大田区大森北町2にある磐井神社に、この珍しい六子狛犬がいる。
明治十四巳歳四月建立、石工高橋安五郎と台石にある。
この子獅子たちの素晴らしいのは、阿像の三子は保育中のあどけなさもあって、二子は互いにじゃれつき、一子は背にしがみついている。
吽像の三子は生まれも早く、男親に似て激しく吼えている。
それぞれのポーズを阿吽の二群に分け、表情豊かに彫刻したこの石工の技量を私は高く評価したい。

阿像 3匹の子獅子

吽像 3匹の子獅子

体長70cm、台石基壇を含め2.5mの高さで見上げる狛犬は、石造芸術の驚きである。
東都、否、全国でも唯一と言って良いだろう。
石工安五郎は名工であると思う。
また、品川区南大井にある天祖諏訪神社にも慶応三年の彼の狛犬があり、八幡石工と地名が刻まれてあり、ここの狛犬は端正である。
その顔立ちは良く似ており、比べてみるのも面白い。また、近くの品川神社一の鳥居には入新井町八幡とはっきり地名を明記しているので、恐らく近在の石工であろう。
これ程の六子狛犬を手掛けた動機は何だったのであろうか。
同境内にも明治四十年建立の灯籠があり、これも作品である。
消防組寄進の組頭以下九十九人の名前がはっきりと刻まれており、当時の姓名を眺めていると、時代が見えてくる。
この外にも鈴石、烏石、文人の石碑なども多く、また神社のいわれとされている霊水湧出の井戸もあって、退屈しない。
江戸名所図絵にもあり、幕府祈願所ともなったこの神社の由来は、太田区史に詳しく、また近くには鈴ヶ森処刑場もあり、狛犬ファンには是非足を伸ばして欲しいものです。

                            青山好一  2006年52号より  (写真;阿由葉)