江戸子獅子物語(4)
几(き)号狛犬   〜 鹿島神社(港区芝)
親を見上げる子獅子表情が愛らしく、微笑ましい。
この狛犬は珍しく三子で、都内港区芝四丁目の鹿島神社にいる。
台石に芝三とあるのは、旧芝三丁目で、昔このあたりは芝浜と言われ、海辺で魚河岸があり雑魚場とも言って魚問屋が多くあったらしい。
江戸名所図絵にもあり、落語「芝浜」に讀まれている。
台石裏に鮓屋、鰻屋、海老屋等の刻名があるところから、これらの若者達の奉納で、寄進日は欠落があって判明しないが、境内に嘉永五年銘の鉄製手水鉢あるところからみて、幕末に違いない。
この狛犬は驚くことに、明治初期新政府によって実施された地籍水準の測量基準点であったのである。
台石表面左下に「不」の彫がある。
このマークは几号と言って、測量技術が英人の指導で行われたところから、イギリスのものと同じである。
几号高低測量と呼ばれたこの水準点は、今ではその発見が珍しく、文化財と言って良く、狛犬としては貴重な存在である。
ハラリと垂れた子獅子の直毛が、親の足許にふれ、見上げるポーズが泣かせる。
バランスも良く、親子一体台石とも名品に数えられるであろう。
現在この神社は都市再開発によって改築が行われ、社殿完成は十八年秋。
後にある獅子山の狛犬は取り壊されており、この狛犬も正しい位置にはないので、その所在が早晩心配である。

                            青山好一  2005第50号より