この受験体験記は財団法人電気通信振興会が発行する 電波受験界 という雑誌の1995年6月号に掲載されたものです。
原文は専門の略語がありましたので一部修正してあります。


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私はこうして合格した

30年ぶりに夢かなえる

(第一級陸上無線技術士)中川容一

*はじめに
 子供の時から模型作りが好きだった私は模型飛行機の製作から始まって小学校3年生の頃には鉱石ラジオ(ゲルマニュームダイオードではなく方鉛鉱を使用していた)を製作していました。
 当時は子供向けの科学雑誌も沢山発行されており”子供の科学”から始まって、”模型と工作”、”初歩のラジオ”等を熱心に読みまくり、高一ラジオ、5球スーパラジオ等を必死になって作ったものでした。
 4KΩマグネチックレシーバの底から微かに聞こえるNHK北見放送局の電波を鉱石ラジオで受信できたときの嬉しさは昨日のことのように思い出されます。
 中学生になってからは飛行機に興味が移り無線はあまりやりませんでした。
 高校は工業高校の電気通信科に入り2年生の時に旧制度の第二級アマチュア無線技士の資格をとりましたが下宿生活でしたので開局はしませんでした。
 その後東京に出て無線専門学校に入りました在学中から受け始めた第二級無線技術士の資格は就職した後の昭和40年にとりました、このときは転職を機会に二か月ほど受験勉強に専念し、科目免除が切れる寸前に合格することが出来ました。
 就職してからは超音波応用装置の設計、テレビカメラの設計、コンピュータ周辺装置の設計など無線とは縁の無い仕事になりましたので上級の資格は必要ありませんでしたが何時かは第一級無線技術士の資格を取ろうと思い続けていました。
 しかし仕事が忙しく残業に次ぐ残業でとても受験勉強をする暇などなく上級資格を取ることは何時の間にか諦めてしまいました。

*第一級アマチュア無線技士に挑戦する
 昭和59年に会社の部下がアマチュア無線を始めたのに刺激されてアマチュア無線局を開局したのですが高校時代に見聞きしたアマチュア無線と違い余りの混雑ぶりにあきれてしまい、ほどんと運用しませんでした。ただモールス通信は昔の気風が残っているようなので電信で運用しようとモールスの練習を始めました。
 昭和36年の旧第二級アマチュア無線技士から新しい第二級アマチュア無線技士への移行試験の時のモールス電信術は欧文のみでスピードも35字位でしたのでレコードを購入して一ヶ月くらいの練習で合格できたので今回も和文は少し練習すれば出来るようになると安易に考えカセットテープを購入して通勤の車中で運転しながらカセットを聞くという中途半端の方法で練習を始めました。
 しかし50歳に近い年齢になると反射神経が鈍り第一級アマチュア無線技士の和文モールス符号50字毎分が何とか取れるようになるのに実に5年近くかかりました。当時小学生の息子がリトルリーグで野球をやっており、その送迎の途中で私の練習するテープを聞いて瞬く間に符号を覚えてしまいました。つくづく通信術は若い時分に習得しなければいけないと思った次第です。
 和文も何とか取れるようになり平成六年の四月の試験を受けようと決心して受験申請書を取り寄せてみると、なんと第二級無線技術士の資格を持っているから科目免除になると思っていた無線工学が免除にならないことに気が付きました。
 早速第一級アマチュア無線技士の問題集を買い求め勉強を始めたのですが久しぶりに勉強する無線工学は非常に面白く、また新鮮でした。
 二月に渋谷で高校時代の同窓会がありました、このとき時間潰しで入った大盛堂書店で第一級アマチュア無線技士の参考書でもあるかと思いながら本棚を眺めていると電気通信振興会発行の第一級陸上無線技術士の問題集が眼に留まりました。最近の問題はどんなものかと手にとって見ますと私が第二級無線技術士を受けた時分の第一級無線技術士の問題と違って予備試験が選択式になり、かなりやさしくなっているようでした。
 昔の第一級無線技術士の予備試験は微積分を使用する問題が多く予備試験さえ突破できれば本試験は何とかなると考えていたことが思い出され、この本のような問題であれば多少勉強すれば何とか第一級陸上無線技術士も取れるのではないかと思い第一級アマチュア無線技士に合格したら次は第一級陸上無線技術士に挑戦だと決意し早速問題集を買い求めました。
 ここで本誌の読者の中には通信士を目指す前に腕試しとして第一級アマチュア無線技士を受験する方もおられると思いますので私の経験を述べさせてもらいます。
 まず通信術ですがカセットテープの練習では繰り返し聞いていると電文を暗記してしまいますので符号を覚えた後は暗語の練習をしたほうが良いと思います。
 普通文で50字が取れるようになっても、暗語ではなかなか50字は取れません試験では初めての文章を受けるのですから、ぜひ暗語の練習をすることをお奨めします暗語の40字が取れるようになれば普通文の50字は取れるようになると思います。
 このため私はパソコンのサウンドジェネレータでモールス符号を出すプログラムを作り毎日夜に30分ほど練習しました。試験では一般の受信機の700Hzよりやや高めのトーンですので880Hzくらいで練習するとよいと思います。
 二ヶ月ほど集中して練習したお陰で何とか50字位が取れるようになりましたが、ここで困った現象にぶちあたりました。それは数字が取れないのです、欧文の数字は比較的容易に取れるのですが和文の中には数字と紛らわしい符号があるためか数字が入ると取れなくなるという摩訶不思議の現象です。このため試験の直前の一ヶ月間は数字交じりの文ばかりを練習しました。試験では和文に数字が出ますのでしっかりと練習してください。
 学科試験の方は過去2年半の既出問題を一度やり、試験前の土曜、日曜に復習した程度ですが問題集の巻末に掲載されている重要公式集はしっかりと覚えました。無線工学、法規とも無線技術士の試験につながる基本的な問題が出ますので、アマチュアの試験だと馬鹿にしないでしっかりと勉強しましょう。
 さて、試験では無線工学、法規とも各一問はずしたのみでしたが通信術では試験の直前の説明で濁音、半濁音のあとにスペースを取らないで一字分の枡に書くようになったことを聞きました(スペースを取っても減点はされないそうです)。
試験が開始されると150人くらいの受験生が一斉に書き始める鉛筆の音と、濁音、半濁音の後のスペースのことに気を取られてしまい最初に20字くらいの脱字を出してしまいました。これではいけないと思いなおし何時ものとおりスペースを取ることとし周りの雰囲気にもだんだんと慣れてきましたので、後半は何とか取ることが出来ました。欧文はあまり練習はしていなかったのですが、試験では二字脱字くらいでほぼ完璧に受信できました。

*第一級陸上無線技術士の勉強方法
 第一級アマチュア無線技士が受かったら六月の第一級陸上無線技術士を受験しようと思っていたのですが通信術が不合格になったと思い込み六月の第一級陸上無線技術士は諦め試験の翌日から通信術の練習を開始しましたが幸いなことに五月になって合格通知書が舞い込みました。
 これは欧文の結果が良かったことと和文も途中で諦めずに一字でも多く取ろうと努力した結果だと思います。
 さて、すぐにでも第一級陸上無線技術士の勉強を開始しようと思ったのですが五月の連休は四国にサイクリング旅行、八月には南アルプスに山登りと遊びまわり試験準備を始めたのは九月になってからです。
 まず九月から十二月までを予備試験および法規、十二月から一月を無線工学Bを勉強することとし無線工学Aは次の期に取る計画を立て準備を始めました。

*予備試験
 第一級アマチュア無線技士の受験の経験より計算問題に意外と時間を費やしたので計算尺を求めることにしました。私の学生時代にはどこの文房具店でも売っていた計算尺が今はデパートに行っても売っていません。散々探し回りやっと東急ハンズで手に入れることが出来ました。昔は電気用、機械用、建築用など何種類もの計算尺が有ったのですが今ではわずかに2種類しか有りませんでした。早速携帯に便利で一番安い小型のものを購入しました。
 電卓の持込が許されていない国家試験では、ぜひ計算尺の使用をお奨めします。計算尺は位取りが出来ないという難点がありますが試験に出る問題のうち九割までは有効数値で正解が割り出せます。答えの中で有効数値が同じで指数の違う場合のみ位取りを計算すればよいのですからもっと利用されたら良いと思います。
 予備試験は昔と違って電気物理、電気回路の問題に微積分を使う問題は出題されませんが問題数が多くなりましたので計算問題を落とすと合格は難しいと思われますので計算問題を重点的に勉強しました。
 公式はカードを作り覚えるとともに問題は必ず計算尺で計算し既出問題の数値が変わっても解けるように練習しました。計算方法は模範解答に出ているものを覚えるだけではなく自分で工夫して出来るだけ短時間で解けるような簡易計算方法を考えながら勉強しました。
 電子回路、半導体、論理回路関係は日頃仕事で接していたので特に勉強はせず問題集をやった程度です。
 予備試験は新しい出題方式になってからの問題数も多いので既出問題をやるだけで十分だと思います。ただし、正誤問題は形を変えて出題されますので正しい答えを覚えるだけではなく間違った答えも参考書で調べ正しい解答を求めておくとよいと思います。
 予備試験の勉強は会社の昼休みに既出問題を4〜5回繰り返しました。最後は昼休みの40分くらいの間に1期分の解答が出来るくらいまでになりました。

*電波法規
 法規は予備試験の勉強と平行して十月頃から始めました。まず既出問題をカードに整理することから始めました。
 プリントごっこに使用するハガキ大のカード(印刷用紙というもので適当な強度があり携帯に便利で価格も安い)を使用して表に問題と出題時期を書き込み裏に解答を書き込んだものを約35枚ほど作成しました。自分で作成したカードには愛着が湧き、さやるぞ、と言う気分になりますのでコピーではなく自分で書いてカードを作ることをお奨めします。
 カードを作成しても覚えなければ何にもなりません。私のとった記憶方法は、まず表の問題の下に鉛筆でヒントを書き込みます。問題とヒントを見て解答を連想していくのです。これを数回繰り返して解答できるようになるとヒントを消して更に繰り返し練習しました。解答するときは単に声に出すだけでなく必ず筆記することが肝腎です。若い時分と違い記憶力が減退していますので見る、声に出す、筆記すると五感を総動員して覚えなければなりませんでした。
 書く時間のない場合は漢字部分のみ書くとか指で書いてみるなどしてみるのも一つの方法であろうと思います。また、問題と解答をテープに吹き込み通勤(自転車で約40分くらい)の途中で聞いて覚えようとしましたが、これはあまり効果がありませんでした。
 法規を勉強していて気が付いたのは約30年前の第二級無線技術士の受験のときに勉強したことが意外とよく記憶されていることです、若いときの記憶力は偉大です。昔の条文が思い出されるので学生時代に使用した昭和34年当時の電波法令集を持ち出してきて現在の法令と比較するなどして思いのほか順調に勉強を進めることが出来ました。

*無線工学B
 法規と無線工学Bの試験は同じ日に行われますので次の試験では一日休みを取ればよいので同時に合格できるように力を入れて勉強しました。
 無線工学Bの勉強は予備試験の準備の目処がついた十一月頃より始めました。勉強方法は法規と同じで昭和五十六年以降問題から今後出そうもない問題を除外して約60枚のカードを土曜日、日曜日を利用して作成しました。
 無線工学Bの分野は学生時代からあまり得意でなかったので特に計算問題に力を入れて勉強しました。この分野では過去の一回の試験で2〜3問の計算問題が出題されている場合もありますので計算問題を落としては合格はおぼっきません。
   このため既出問題をやるとともに電気通信振興会の「空中線及び電波伝播」を購入し計算問題を徹底的に勉強しました。
 記述問題は文章だけではなく図形や波形図を描いて文章に関連ずけるようにして覚えることで記憶がたしかになると思います。また旧試験制度の設備管理の分野が抜けがちですので注意してください。
 カードは法規と同じ方法で3〜4回繰り返し解きました。またカードは常に携行し少しでも時間が有れば取り出して記憶しました。

*無線工学A
 この科目は最初次回に回そうかと考えていたのですが他の科目の勉強が順調に進んだので正月休を利用してカードだけでも作ろうと思い8日間を全部費やしてカード作成に没頭しました。時間がなかったので記述問題のみで計算問題は省き約60枚のカードを作成しました。
 無線工学Bにほどんとの時間を割きましたので無線工学Aは2〜3回カードを読み直した程度であまり勉強しませんでした。この科目は学生時代からの得意科目でしたのでこの程度の勉強で合格点にたどり着きました。

*勉強時間
 私の場合は、まとまった勉強時間はほどんと取れませんでした。土曜日、日曜日の半分くらい、会社の昼休みの食後の40分くらい(来客や出張で潰れる事が多かった)就寝前の30分位が勉強時間でした。このため5分でも10分でも時間が出来たときにカードを取り出し勉強しました。
 晩酌は元々ビール1本程度でしたので風呂に入る前に済ませ特別に制限しませんでした。

*予想について
 本誌の出題予想が当らないと言って嘆いている方もおられますが私の場合は特に予想を立てませんでした。120問近くの問題を勉強し出題者の立場になって考えると出そうな問題はほぼ推測がつきました。
 本誌の予想は最新の問題から予想しているので10年程度前の問題が抜けているし試験前2年以内の問題は予想から外していますので的中率が低くなっていると思われます。
 勉強するのは試験のためではなく自分の知識を広めるためだと思って、これらの問題をやっておけば予想を外したと言って嘆くこともないと思います。試験では無線工学Aの計算問題以外は、すべて学習した範囲内からの出題でした。

*結果
・予備試験は計算問題にかなり時間を要しました。特に電気回路の計算は試験終了5分前位までかかった問題もあり計算尺がなければ危ういところでした。自己採点ではほぼ合格点に達していると思えましたので自信を持って本試験の準備に臨めました。

・法規は穴埋め問題に新問が出ました。穴埋め問題は長い条文が出せますので新問が出しやすいところです。電波法くらいは問題集のみではなく全文読んでおきたいものです。私はこの穴埋め問題の条文は昔の条文と比較したときに一度読みましたので細かい数値は別として半分くらいは出来ました。他の問題は既出問題でしたのでほぼ書けました。

・無線工学Aは計算問題は勉強しておりませんでしたので基本式と説明程度でとどめ、他の4問の記述式問題で合格点を稼ぎ出すように全力を注ぎ書きまくりました。幸い4問とも学習した範囲内からの出題でしたので何とか合格点に達したと思われます(計算問題に対する準備不測を反省しています)。

・無線工学Bは全問学習した範囲内でしたので問題を見た瞬間に、この科目は合格出来ると思いました。ほぼ完璧に出来たと思います。

 以上の結果で1年はかかると思っていた試験を5ヶ月間の短期間の勉強で合格することが出来、長年の夢であった第一級陸上無線技術士の資格を手に入れることが出来ました。

*老婆心ながら
 53歳にもなって受験勉強をするなど夢にも思わなかった私ですが同時に受験した多くの若者のいるのみて学生の理科離れが叫ばれているこの頃ですが、まだまだ日本の科学技術も見捨てられたものではないと心強く思うと同時に30分の在室制限時間が過ぎるとすぐに席を立つ若者を見ると腹立たしくもなります。
 そこで老婆心ながら今回気がついた点を述べさせていただきます。
 無線従事者の国家試験は記述式で行われている(8年度からは選択式になるようです)これは受験者が無線従事者たるにふさわしい基礎知識を持っているかを見るものですから問題集の模範解答を丸暗記するのではなく、その内容を理解して自分の持っている知識を自分の言葉で表現することにより採点者にアピールすることが必要ではないでしょうか。
 この様に考えればヤマが外れたといって30分で席を立つ若者は自己に対してのみではなく採点者に対しても受験料を出す親に対しても失礼なことをしているとの自覚を持つべきです。社会に出ればヤマが外れたと言って会社を辞めるわけにはいかないのです。十分の準備をして試験に臨んで欲しいと思います。
 記述試験は当然ながら書くことにより解答します。この書いて表現するということは日頃から訓練していなければなかなか出来るものではありません。暗記しただけでは試験のときに上手く表現できるものではありません。勉強中から試験のつもりで解答を書く訓練を積むことが肝腎だと思います。

*おわりに
 第一級陸上無線技術士の資格は世間一般では(特に公務員としては)国家公務員1種と同等の資格として認められております。今回受験した範囲では第一級陸上無線技術士の試験は一昔前に比べて格段に易しくなっているというのがその印象です。
 もっとも最近の電子機器の性能は素晴らしく向上しており昔の無線従事者が修理、保守作業が主任務であったのに比べ現在では管理作業が主任務であることを考えればそれも当然かとも思います。
 しかし、いかに易しくなったとは言え資格には変わりありませんから就職のためにも自己研鑽のためにも是非多くの若い方々に挑戦していただきたいと思います。
 国家試験は選抜試験ではありません努力すれば必ず手に入れることが出来るものです。皆様のご健闘をお祈りいたします。

私の受験歴

昭和33年3月  旧第二級アマチュア無線技士合格
昭和36年9月  第二級アマチュア無線技士移行試験合格
昭和40年4月  第二級無線技術士合格
昭和59年10月 アマチュア無線局 JQ1UJR 開局
平成6年5月   第一級アマチュア無線技士合格
平成7年3月   第一級陸上無線技術士合格



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