この受験体験記は財団法人電気通信振興会が発行する 電波受験界 という雑誌の1997年8月号に掲載されたものです。
原文は専門の略語がありましたので一部修正してあります。


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私はこうして合格した

英語に挑戦 通信術で苦戦

(第一級総合無線通信士)中川容一

[はじめに]
 平成6年5月に第一級アマチュア無線技士、平成7年3月に第一級陸上無線技術士の免許をそれぞれ一発で取得し(この経緯は平成7年6月号の本誌に掲載させて頂きました)次の目標として第一級総合無線通信士に挑戦することにしました。その理由は私は中学校入学以来英語を最大の苦手科目としておりましたので、この際英語に挑戦してみようと思ったわけです。今まで何度もテレビの英会話講座などをやりましたが長続きせず途中で挫折してしまいましたので確固たる目標がなければ勉強を続けることが出来ない自分の性格を充分承知していました。そこで第一級総合無線通信士を受験することにより強制的に英語を勉強しなければならない状況を作り出さなければ英語の習得は不可能と思えたからです。

[第二級総合無線通信士]
*平成7年9月期
 最初から第一級総合無線通信士の英語に挑戦するのは無理と思いましたので小手調べに第二級総合無線通信士を受験することにしました。

*英語
 当時の英語の実力は Jack and Betty. I am a boy. 程度であり、これを短時間で第二級総合無線通信士のレベルに持っていくには通常の方法では無理です。そこで試験に合格できる最低点である60点を確保するために必要な項目に絞って勉強することにしました。
 過去の試験の問題を調べた結果、得点の取り易い業務英語の英文和訳と、一般英語の和文英訳を70%程度得点し一般英語の英文和訳を50%、英会話を50%程度得点できれば合格できるのではないかと考え、この範囲に的を絞って勉強することにしました。
 まず単語力をある程度つけなければなりませんので高校受験用の単語集を購入し1200語ほどの単語の暗記とスペリングを3回ほど繰り返しました。更に単語集に出ている例文をやはり3回ほど繰り返しましたが年のせいで(当時54歳)覚える端から忘れる始末で、どれほどの効果があったかは疑問ですが、やらないよりはマシであったと思います。

*業務英語
 業務英語は国際電気通信条約の全文訳に挑みました。電気通信振興会の国際電気通信条約の英文の抜粋と解説書を購入し毎日1時間くらいと土曜日、日曜日の各半日を英訳に当てました。最初はほどんとの単語を辞書で引かなければならず1日に半ページしか進まないという状態でした。これではいけないと思い一度辞書を引いた単語はスペルと意味をパソコンに登録しアルファベット順に整理し直し自分なりの辞書を作成するソフトウエアーを作成してからはかなり効率的に英訳が進みました。また英訳するだけではなく原文と訳文もノートに書き取りスペルも覚えるようにしました。
 結果的には全訳までいたらず59章まで訳して試験を迎えましたが40章までのフランス語の条約原文を翻訳したような古い言い回しの英文や、N37章以降の新しく制定されたアメリカ調の英語の違いなども、何となく感じることが出来るようになりました。
 この英訳を通じて関係代名詞などの文法の理解が出来たことと訳順などのコツが会得できたことなど、非常に大きな成果が得られました。また、副産物として法規の国際電気通信条約の勉強にもつながりました。皆様も是非全訳に挑戦してみてください。

*和文英訳
 和文英訳は難しい和文は出題されませんので得点しやすいと思います。試験では辞書を使用できましたが一語一語辞書を引いていたのではいくら時間が有っても足りません。英訳は自分が知っている範囲の語彙で表現できるように知らない単語をほぼ同じ意味の単語に置き換え、できるだけ短い文章に分解し馬鹿の一つ覚えの関係代名詞で繋いでいって英文らしくして採点者に少しでもアピールするようにしました。

*英文和訳
 英文和訳はほどんとやりませんでした試験の一週間前くらいに過去問題を一通り目を通した程度で業務英語の英訳の成果と辞書を使用すれば何とかなるとの感触を得られました。

*英会話
 英会話は電気通信振興会の無線通信士用英会話テープを購入し自宅から会社までの通勤途中(健康の為に12.5Kmの道のりを50分かけて自転車通勤していました)に繰り返し聞き解答を口に出して練習しました。幸い通勤路の大半がサイクリングロードであり、口に中でぶつぶつ呟いていても怪しまれることは有りませんでした。

*法規
 法規は第一級陸上無線技術士の受験の時に効果のあった方法と同じく葉書大のカードの表に過去に出題された問題と出題時期を書き込み裏に解答を書いたカードを40枚ほど作成し会社の昼休み時間や買い物の待ち時間などの一寸した空き時間が出来たときに取り出して記憶しました。問題を見ても解答の思い出せないものは鉛筆でヒントを書き込み、ヒントから解答を連想できるようにし、記憶したらヒントを消して更に繰り返して練習するようにしました。法規は第一級陸上無線技術士と共通の問題もありますが運用関係や国際条約関係など問題数が多いので記憶するのが大変でした。

*地理
 海岸局、測位局と主要港の位置を日本と世界の白地図に書き込んだものを作成した程度で特に勉強しませんでした。唯一の勉強は試験当日、法規の試験が終了し科目免除で受験しないで済む無線工学Bの行われている間に過去問題をやった程度です。第二級総合無線通信士の地理は日本、アジア、インド、オーストラリアの範囲ですのであまり難しくはありません。

*受験結果
 自己採点では3科目とも合格出来そうなので電気通信術の練習を開始しました。

[第一級総合無線通信士受験]
 第一級アマチュア無線技士に合格してから約一年半、第一級陸上無線技術士と第二級総合無線通信士の英語の勉強に没頭し、この間、電鍵に触れたこともなければ受信練習もしていなかったため、いざモールスの練習を開始してみると第一級アマチュア無線技士の速度の和文50字毎分が取れないのです。和文は35字位、欧文は45字位の受信能力に低下していました。毎日、和文一通、欧文一通でも練習を続けておけばよかったと後悔しても後の祭りでした。諸先輩から通信術は一日でも練習を休むと技量が低下するとの話は聞いていましたが、これほどとは思いませんでした。いくら後悔しても始まりませんので毎日一時間半の練習を義務付けて練習を再開しました。
 最初は1ヶ月で5字くらい受信速度を上げれば6ヶ月もあれば何とか75字まで到達できるのではないかと考えたのですが60字を越えるあたりから受信速度が上がらないのです。いわゆるプラトー現象に陥ってしまいました。受信速度を上げたり下げたりしても駄目、遅れ受信をすればよいかと思い、やってみましたが年のせいか反射神経が鈍くなっていて、かえって悪くなる始末で途方にくれてしまいました。
 多少ともプラトー現象から抜け出すのに効果のあった練習方法は、ある漫画家が言っていた次の言葉からヒントを得た練習方法です、それは「漫画を書くのは何も難しいことではない、何を書くかさえ決まれば紙の上に書きたい画像が浮かんでくるのだ、あとはただ浮かんだ画像どうりにペンを走らせればよいのだ、漫画を書く上で最も難しいことは何を書くかを思いつくことである」との話でした。
 この話にヒントを得てモールス符合を聞いてすぐに文字を書くのではなく符号を聞いてまずその文字を受信紙の上にイメージとして描き、そのイメージをなぞるように筆記用具で書くという練習をやりました。
 この練習方法は和文の70字くらいまでは効果がありましたが和文75字以上、欧文80字以上では描字速度が速い為にあまり効果がありませんでした。しかし、プラトー現象から抜け出す一つの方法ではあると思いますのでプラトー現象で悩んでおられる方は試してみて下さい。結局、プラトー現象から抜け出すためには不断(普段)の練習しかありません。
 受信速度は上がらぬままどんどん時間だけは経過し、平成8年1月には海外出張のため練習が中断するなど最悪の状態で平成8年3月の試験を迎えました。
 このときは和文が65字程度、欧文はほどんと練習せず、送信と直接印刷電信(テレタイプ)は1週間程度の練習しかしていない状態で、試験の雰囲気を知るためのみの受験となりました。
 結果は勿論不合格で第二級総合無線通信士の電気通信術の試験は棄権しました。この試験で得られた収穫は、和文75字は想像していたより早い、欧文普通語100字は意外と遅く欧文暗語80字よりやや早い程度である。直接印刷電信は普通文が出題され、モールス符号で使用されている記号も出題されるなど、試験の具体的な方法がわかったことでした。

*英語
 電気通信術の不合格は確実なので翌期に受験しようとしていた英語を急遽受験することにしました。電気通信術の試験が終了してから英語の試験日まで20日くらいあったので集中的にやれば何とかなるのではないかと思ったのと、この期が郵政省で行う最後の試験で次の期からは選択式の問題になりますので出題傾向のわかっている記述式の問題のほうが取り組みやすいし、辞書を使えるのもこれが最後だったからです。また、第二級総合無線通信士の試験の結果から見て記述式でもポイントさえ外さなければ結構得点できそうであること、第二級総合無線通信士で勉強したことを忘れてしまわないうちに第一級総合無線通信士の英語を取ってしまおうとの思惑もありました。
 第二級総合無線通信士の時の業務英語は頭の中に残っていましたので復習程度にザット目を通したくらいで、過去5年間の問題を全部やり各出題分野を浅く広く平均的に得点できるように心がけました。
 第一級総合無線通信士の英会話は多少レベルが上がりますので電気通信振興会の無線通信士用英会話テープに加えて大学受験用の英単語と例文を収録してあるテープを繰り返し聞いて単語の語彙と会話の能力向上を図りました。

*法規
 法規は時間がなかったので第二級総合無線通信士の時のように「問題〜解答」式のカードを作っていては間に合いませんので過去に第一級総合無線通信士で出題された問題で第二級総合無線通信士と重なる問題を除き要点のみをカードにして覚えました。特に無線運用規則の遭難通信は第一級総合無線通信士でよく出ますので重点的にやりました。第一級総合無線通信士の問題は1問を除いては第一級海上無線通信士と共通なので最近は無線電話関係の問題が主に出題されます。時間がなかったので無線電信関係の項目は思い切って切り捨て最小限の勉強で最低限の合格ラインを目指しました。

*地理
 第二級総合無線通信士の時に作成した白地図に南北アメリカ、ヨーロッパ、アフリカ、中近東の海岸局や主要港の位置を記入した程度でほどんと勉強する時間は取りませんでした。

*受験結果
 短時間の勉強でしたが幸運にも英語、法規、地理が合格となり残すは苦手の電気通信術のみとなりました。

*平成8年9月期 電気通信術に再挑戦
 平千8年3月期の電気通信術の試験が終了してから第一級総合無線通信士の英語、法規、地理を受験するために20日位練習を中断していましたが再び電気通信術の練習を再開しました。まず、ほどんと練習していなかった欧文の練習を始めましたが、欧文100字はさすがに速く受信速度はなかなか上がりませんでした。
 いくら練習しても上達しないため何度も止めようと思いましたが、ここで止めては折角苦労して合格した英語が無駄になると思い直して練習を続けました。結局、約5ヶ月の練習で和文70字、欧文90字の受信速度まで上げるのがやっとで受信練習にほどんとの時間を費やし送信の練習は2週間位しかやれませんでした。
 受験結果はまたしても第二級総合無線通信士、第一級総合無線通信士とも電気通信術は不合格でした。

*平成9年3月期 電気通信術に再々挑戦 幸うじて合格
 第二級総合無線通信士、第一級総合無線通信士を合わせて3回も電気通信術の試験に落ちるとさすがに自分には電気通信術に対する適性がないのではないかと思い始めました。試験で出される和文75字の速度と私がパソコンで発生させる暗文モールス符号の75字は3回の試験を受けた感じでは試験のほうが早く感じるのです。そこで3回の試験で出された試験前の耳慣らしの和文の練習文の受信用紙は持ち帰りが出来ますので、持ち帰った練習文の文の歯抜けになっている部分を繋ぎ合せ、ほぼ正確な「マゼランカイケウハウミノナンシヨデアル・・・・」の文を再現しました。この文をパソコンで正確に75字で送信するように送信速度を調整し、それと同じ速度で新聞記事などの普通文を送信すると78字から80字の速度になりました。
 練習文には符号の長い数字と記号が入っているのですからこのような結果になって当然なのですが試験で合格するためには普通文で80字程度の速度が受信できなければならないと言うことがわかりました。
 同様に欧文普通語の練習文を国際条約に定義されているように記号、数字を2文字に換算してパソコンでシミュレートしてみると普通文の速度は93字くらいでした。
 欧文暗語は試験を受けた感じでは記号、数字は日本では国際条約のように2字換算されていないようです。このためか欧文暗語と欧文普通語の速度は100字と80字の差ほど大きくなく普通語が暗語よりやや速い程度です。上記の検討の結果和文は普通文で80字、欧文は普通文で95字が確実に取れるように練習することにしました。
送信は3回の試験を通じて散々の成績でした。高校、専門学校ともに無線技術士の養成を目的とした課程でしたからモールスの送信術を正式に習ったことはなく、まったくの独習でした。
 国家試験ではエレクトロニクス・キー(電子的にモールス符号を出す装置)も使えますがプロの通信士の試験を目指す以上、手振電鍵で試験を受けるのが正道と思い縦振電鍵にこだわりました。
 練習方法は最初パソコンの画面に練習文を表示し3字遅れでその文字のモールス符号を音で出し、その音に合わせて電鍵を操作する方法を取りました。この方法で大体の速度感覚を掴んでからはパソコンの画面上で印字機のように符号の長さに応じて線を引くプログラムを作り、符号の長、短、間隔の不揃いが表示できるようにしました。また、長点符号、短点符号、間隔の 長さの分布図を表示するプログラムを作り1対3の短点、長点の比率が正確に出ているかをチェックできるようにしました。
 いくら便利な道具を作っても、それだけで上達するわけではありません。最終的には練習を積み重ねることしか上達する秘訣はありません。
 しかし、これらの道具を使って自分の符号の欠点はよく見えるようになりました。例えば、長点が短くなり「ケ」が「ロ」のようになるとか「オ」が「ヌ」のようになるのですが、自分で打って自分で聞いていると正しく聞こえるのです。独習者の悲しさで欠点を指摘してくれる人がいないので我流の打ち方になってしまいがちです。自分の符号を目で見ることが出来れば欠点に気づくことが出来ます。私の場合、欠点はわかりましたが修正中に時間切れで試験に臨むことになりました。

*受験結果
 試験では私があがっているのが試験官にはわかるらしく、落ち着け、落ち着けと試験官に励まされながらの受験でした。試験後の講評では速度は速いが符号が汚いと注意され、しばらく考えられておられましたが「受信の結果はどうだったか」と聞かれましたので「受信は大丈夫です」と答えると、うんと肯いておられました、多分ぎりぎりの点数で合格の判定に迷っておられたのでしょう。

[後書き]
 幸いなことに56歳の誕生日を5日過ぎた日に合格通知を受け取ることができ2年3ヶ月にわたる受験生活に終止符をうつことが出来ました。
 最初は英語に挑戦のつもりで始めた第一級総合無線通信士の受験ですが結果として一番苦労したのは電気通信術でした。受信練習した文字数は受信用紙に書き取っただけで240万字を越え勉強時間の95%くらいは電気通信術の練習に費やし4%くらいが英語、1%が法規と地理の勉強でした(一般には100万字練習すればプロの試験に合格出来ると言われているようです、いかに私がヘボだったかが、分かって頂けるかと思います)。
 本来の目的である英語の習得が出来たかと言うと受験のための英語に終始し実力が付いたとはいえませんが、やれば出来るとの自信は付きましたので、これからも勉強を続けていきたいと思います。
 今回の受験を通じて強く感じたことは受験勉強にパソコンを利用することにより勉強の効率を上げることが出来たことです。受信練習に止まらず、英単語の整理、送信練習、直接印刷電信の練習にパソコンをおおいに利用しました。皆様もベーシックなどのプログラムを習得して是非、第一級総合無線通信士に挑戦してください。

私の受験歴

昭和33年3月  旧第二級アマチュア無線技士合格
昭和40年4月  第二級無線技術士合格
昭和59年10月 アマチュア無線局 JQ1UJR 開局
平成6年5月   第一級アマチュア無線技士合格
平成7年3月   第一級陸上無線技術士合格
平成9年4月   第一級総合無線通信士合格



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