SPIRIT 27  退職(長文)


「係長、私来月で止めます。」

「はあ・・・?。」

突然バイトのI美が止めると言い出した。

「I美さん、1年間の契約じゃなかったっけ?」

「はい、就職先が決まったんです。」

「それはおめでとう。」

おめでとうって、このくそ馬鹿野郎!
今日は8月30日だぞ!後期の臨職書類提出のメ切りは、明日までだあ!止めるんならもっと早く言え、このくされバイトのニートめがあああ!あん?てめえ、人生真面目に考えているのか!あん?何突っ立っているんだ?貴様の人生など聞いてたまるか!耳が腐る!(心の中)

 

「係長、後任すぐ決めてもらえますよね?」

話を聞いていたZ副主任が冷たい視線でネチネチと攻撃を始めやがった。

まいった。バイトが突然止めるとは。I美のようなくされバイトが止めるのはどうでもいい。かえってラッキーだ!あいつは係のタガをがたがたにした張本人だ。遅れる、休む、働ずの三点セットの寄生虫だ。あいつの人生など知ったこそじゃない。

問題は、明日までに後任を決めなければならないことだ。今は係は1名減員の状態だ。5人のところ4人だから、1人2割増の仕事をしていることになる。その不満は、そのエネルギーはすべて俺に向かって来る。
そのハケ口のためにバイトを雇っているようなものだ!

でもね、みなさん、職員の不足分は実際には全部係長の俺がかぶっているんですが。

ともかく何とかしなくては!

 

「I係長助けてくださいよ。」

俺は総務係長に泣きついた。

「山川係長、本当はダメなんですよ。山川係長だけですからね。秘密にしておいてくださいよ。」

「ありがとうございます。助かります。」

人間は人と人のつながりで成り立っている。
総務係長の恩情に感謝し、俺は個人情報の固まり門外不出の履歴書綴りを手に入れた。

あるわ、あるわ何故こんなにと思う程の履歴書の山だ。今はこんなにも不況なのか???
よく見ると、履歴書の記載事項は共通だった。2〜3年で企業を止め、国や県市を渡り歩いている若い女ばかりだった。

こ・こいつらは、会社という組織からはじき出され、公務員のぬるい世界のバイトという立場を選んだ社会人としての欠陥品だ。I美の仕事に対する取組みがようやくわかった。
正職につけず、役所のバイトと国や県のバイトを交互にやって時間をつぶし、主婦の座を狙ってギラギラと永久就職先である獲物を探すパラサイトの集団だったのだ。

 怖い・・・。俺はどうしても、この中からバイトを選ばなければならないのでしょうか・・・・。

係のみなさん!2倍働きますから、バイトはもう許してください。

 

←BACK    →NEXT
↑TOP ↑HOME