SPIRIT 21  気が狂いそうだ T


「山川係長、ちょっといいですか?」

総務企画課のB主幹が退庁直前の16時55分にやってきた。

「はい、何でしょう。」

すみませんが、私は17時には退庁して夕食のおかずを買って、保育所に迎えに行くんですが…

「あのですね、先ほど電話が入ったんですが、市民から国民健康保険の件で電話がありましてね、どうも払った払わないの

話になりまして、トラブルになっているんですよ。なんとか助けてくれませんか。」

「あいにくですが、今日は端末担当の職員が早退してまして、IDカードでしか、入れなくて、確認は無理です。市民相談

の窓口は企画総務課じゃありませんでしたっけ?」

早く帰るんだから、やっかいな話もってくんなよ。トラブルは総務企画の仕事だろうがぁ!

「そうはそうなんですが、うちの方も端末操作の者が会議なもんで…。そうですか、では所長に相談してみます。」

ふう、あぶなかった。あの課長は厄介ごとはみんな庶務課に押し付けるもんな。

夕食の買い物をして、保育所に迎えに行って、課内を拾って、18時30分帰宅。夕食作りに精を出していると、電話

が入った。

「もしもし」

「山川か!」

「は、はい!」(な、なんだ、所長だ!)

「きさま、今日帰り際、B主幹の依頼を受けずにそのまま帰ったんだってな。」

「いえ、あれは端末を操作できる者がいなくて…。そもそも総務企画の業務ですし…。」

きさま、何言い訳しやがってんだ!てめえ!」

「はい」

「保険センターで困りごとが発生したら、職員で対応するのが筋だろうがあ!」

「は、はい」

「今すぐセンターに戻って、B主幹の仕事手伝ってこい!いいか、これは俺の業務命令だ!」

「は、はい」


「みんな、ごめんな。お父さんはこれから仕事だ。」

「え〜ん、お父さん、いかないでえ!」

4歳と1歳の子供が俺にすがって泣きすさぶ中、俺は家振り切るように職場にへ戻った。

あゝ!気が狂いそうだ。

俺は車の中でブルーハーツの名曲を口すさんでいた。あゝ気が狂いそうだ♪



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