SPIRIT 4 初登庁

 5年間本庁にいたせいか、事務引継ぎは山ほど残っていた。

 そこで、1日でも遅く異動しようと移動先のK課長に電話した。

「山川です。あのう事務引継ぎがあるんで、1日には赴任できそうにないのですが・・・。」


「なにい〜!いますぐ飛んで来い!」
 忘れていた。K課長は高校時代全日本柔道選手権大会で、入賞し、今も自宅を改築して道場を開いている猛者だと言う

ことを。柔道一筋であり、その生き様は直情径行そのもので、筋を通さなければ、社会人であろうと鉄拳制裁もありうる体育

会系の恐怖の男なのだ。

「は、はい!」

 俺は保険センターに飛んでいった。

「失礼します。この度本庁より赴任しました山川です。ただいま着任しました。」

 課の職員が一斉に俺の方に振り向いた。しばらくして、まばらで均質な拍手が鳴った。

「ああ来たか。まあ食えや。」

 そこには、本庁時代出たこともなかったケーキと挽きたてのコーヒーが用意されていた。

「は、はあ・・・。結構ですが・・・。」

 おいおい、勤務中に何でこいつらケーキ喰いながら甲高く会話しているんだよ。喰ってたまるか!

「何してる。あん、係長は喰わないって言うのか!」

「い、いえ、そんな・・・。」

「だったら、喰え!」

「いただきます。」

 俺は泣く泣く食べた。勤務中にこんなことがあっていいのかあああああ!とにもかくにもこうして俺への通過儀礼は終わ

った。


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