「ねえ、Tさん。男って子供よねえ。あっ、すみません。係長のことじゃないんです。私のだんなのことですので、気にしない
でください。」
始業が始まると例によってI副主任が切り出した。今は勤務に要する時間なんだがな。それにしてもこの職場では自分の夫
をだんなと呼ぶ。一応は恋愛結婚して結ばれたはずなのに君たちは主人とでも呼べないのかね。
「ねえ、どうして?」
「昨日さあ、TVで子供とハヤオの天空の城ラピュタを見ていたらね、突然泣き出したのよ!笑っちゃうじゃない!何がバル
スよ。男って、何て単純なのかしら!」
ばか野郎!それがロマンっていう奴なんだ!
「そうそう!私のだんなもね、すごい幼稚なのよ!こないださあ、ダイエーから折りたたみ自転車を買ってきたのよね。家ま
で来ようとしたんだけど、途中でハンドルかなんかダメになってしまってね、2時間もかけて引っ張ってきたのよ。途中で捨
てて来ればいいのにね。」
「それで、その自転車どうしたの?」
「それがさあ、自分の部屋に飾ってんのよ。私のうちマンションじゃない。狭い4畳半に置いてるのよ。邪魔で邪魔でしょうが
ないのにね。ホント、馬鹿だわ!」
きさまらもののけ姫に男のロマンがわかってたま
るかあああああ!
心の中で吼えながら、話を聞いていない振りをする俺がいた。
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