SPIRIT 2 針のむしろ

 
 なぜだ・・・。俺は喜ぶ前に困ってしまったというのが本音だった。本来ならポスト係長に昇進したのだ。素直に喜ぶべきこ

とであろう。しかし、当時俺はまだ43歳。役所の行政技術職にしては、異例の早さだ。50前後の平先輩達を差し置いて、

なぜ俺が・・・。

 喜びよりも、戸惑いが先で、気が重かった。さらに悪いことにはこの日は、退職する先輩達の送別会の日と重なっていた

のだ。よりによって異動内示の日に送別会となって、会場はまさに針のむしろ状態だった。俺の隣には誰も座らない。懇意

にしていた(と思っていた)先輩達が妙によそよそしく振舞って、俺に距離を置いた。上司はおめでとうと近寄ってくれるが、

俺にとってあ先輩を無くしたという事実の方がもっと大切なのだ。
俺は目先の毛の生え

たような出世より、今までの、今までどおりでいい

んだ!ばかやろう!


 この日俺は、『長』とは孤独の中で生きてゆかざるをを得ない役職であるということを初めて知った。

                                                                 
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