SPIRIT 3 大切な日

 今日は3月30日、土曜日である。嗚呼、いよいよあさってから、新職場である。寝てもさめても、頭の中は異動のことば

かりでいっぱいだった。出るのはまさにため息ばかりだった。

 しかし、今日は妻がどうもよそよそしい。俺に気を使っているのか朝からどうも変だ。なにかあったのか?いや、やっぱり

あの日か?あの日はいつも機嫌が悪いからなと思って、俺は無理に納得した。

 そして、夜9時子供を寝かせながら妻は言った。

「今日は何の日だっけ?」

「えっ?今日?今日は3月30日が。あさってからいよいよ異動だなあ。はあ、憂鬱だ。」


「また忘れたのね。」

「・・・ん?ああっ!ごめんごめん!お誕生日おめでとうございます!」

 しまったあああああ!忘れていたああああ!

「去年も忘れたよね。」

「いや、本当にごめん!ごめんなさい!(土下座しています。)異動のことで頭がいっぱいで・・・。」

「知らない!あなたは移動のことだけ考えていればいいのよ!」

 妻の泣き声で子供が泣きながら起きてきた。

「お父さんが悪い!ええん、ええん!」

 俺は家族という最後にすがる拠りどころから、信義信頼という社会に生きる者にとって最も大切なものを失ってしまった。

                                                                   
←BACK    →NEXT
  ↑TOP ↑HOME