読 書 日 記(30) き り し た ん 算 用 記 

  『きりしたん算用記』 遠 藤 寛 子    PHP文芸文庫  500円
 
 江戸時代初期、天涯孤独な少女「小菊」は奉公していた米屋から盗みの疑いをかけられて解雇されてしまう。京都・北野天神で妙齢の女性に救われて家に連れて帰られた。彼女はルチアという洗礼名を持つキリシタンであった。
 聡明な小菊を見込んで、読み書きや算法を学ばせるルチアだったが、しだいにキリシタン弾圧が強まり、平穏な日々は続かなかった。学問ができることには喜びを感じる小菊だが、当初はご禁制のキリシタンになることには抵抗を感じてしまう。だが、旅をするうちに色んなキリシタンの人たちと出会い、その信仰心の強さに触れるうちに、その教えにひかれていく。

 若き日の吉田光由(与七)が脇を固め、後に彼が著す「塵劫記」と小菊の意外な逸話が折り込まれている。


 遠藤寛子氏は児童文学作家。江戸時代の和算に取り組んだ少女を主人公にした「算法少女」が「ちくま学芸文庫」から2006年に出版されているが、こちらもお薦めの1冊である。


                          (2012 10/4)

 
読 書 日 記(31) 天 地 明 察

  『 天 地 明 察 』 冲方 丁(うぶかた とう)   角川文庫 上下各580円

 徳川4代将軍家綱の治世、当時の囲碁のプロ棋士は、「本因坊家」「安井家」などの4家が将軍の御前で勝負をしたり大名に囲碁を指導したり、というスタイルであった。その安井家に生まれた「安井算哲」は、才能に恵まれながらも「次男」という立場上、出世にも富にも興味がなく、星の観測と算術の問題を解くことに熱中していた。
 当時の日本で使っていた暦の下敷きは、中国・唐の時代のもので800年も使われるうちにズレが生じていた。(と言っても2日のズレだそうで、コンピューターはもちろん、秒まで計れる時計のなかった時代にそれだけの暦を作ったこと自体が私には驚異的なのだが)
 若き将軍家綱の後見人である、会津藩主「保科正之」は、まだ23歳の算哲を見込んである大計画のリーダーに抜てきする。実績重視の江戸時代に、天才といえども若い算哲を選んだのは、何十年もかかるであろうことを見越してのことであった。
 「新しい暦を作る」ということは、その販売権など政治的、経済的な大きな利権が生じるのみならず、朝廷や神社・仏閣の宗教行事を握ることにもなるので、現代のように「ズレてますから新しくします」とは簡単に言えない時代だったのだ。
 安井算哲こと渋川春海は、新しい日本独自の暦を作ることができるのだろうか。

 始まりの場面は、春海が登城前に早起きして神社の「算術の問題が書かれた絵馬」を見に行くところから始まる。そして後に日本式数学である「和算」中興の祖である「関 孝和」との出会い(実際に顔を会わせるのはかなり後のことになる)もあり、上の本にも出て来る「塵劫記」も登場するなど、和算の世界も紹介されているので、中3以上の人はぜひ紙と鉛筆を用意して読んで下さいね。

                           (2012 10/15)
 

読 書 日 記(32) て ふ て ふ 荘 へ よ う こ そ

  『てふてふ荘へようこそ』 乾 ルカ       角川文庫 620円

 乾ルカは2006年に36歳でデビューした作家。作家としてはまだ新人の部類に入るだろう。しかし、読み終わって大きな衝撃を受けた。キャラクター設定、舞台設定、ストーリー展開、すべて完璧!「ベテラン作家の会心作」並の出来だと、読書家の私は太鼓判を押したい。2010年には直木賞の候補にも上がったが、この人なら直木賞を取るのも時間の問題だと思う。
 私が読んで「この作家は凄い!」と思った人は、後に直木賞を受賞してきた。浅田次郎、乃南アサ、宮部みゆき、東野圭吾、石田衣良がそうだったから。

 「てふてふ荘」は、バス停から徒歩10分とやや不便な所にあるアパート。1階、2階にそれぞれ3部屋の計6部屋。トイレ、風呂は共同のオンボロアパートだが、なんと敷金、礼金なし、家賃は月1万3千円と破格の安さ。(この安さがわからない中高生の人は近くの不動産屋さんで賃貸アパートの広告を見て下さい)
 しかし、その安さにはもちろん理由がある。各部屋には1人?ずつ自縛霊が住んでいるのだ。その幽霊たちを成仏させることができるのは、住人が幽霊と心を通わせられた時に、幽霊に触れることが出来た時なのだ。(幽霊なのでそれまでは話はできるが触れることはできない。中には物を動かしたり、いっしょにお酒を飲んだり、ちょっぴり悪さをする幽霊もいるが)
 各部屋では、それぞれの住人が幽霊と付き合い、交流を深めていくのだが、さて自縛霊たちは無事に成仏できるだろうか? というヘンな設定の話なのだが、それぞれのエピソードは「深イイ話」になっている。
 なお、恐い幽霊は出てこないので、恐がりの人でも大丈夫です。安心して読んで下さい。

 なお、本書はドラマ化される予定で、2012年10月27日からNHK/BSでドラマが始まるそうだ。

                                (2012 10/18)


読 書 日 記(33) プ ロ メ テ ウ ス の 涙

  『プロメテウスの涙』 乾 ルカ       文春文庫 600円

 乾ルカの新作が本屋に並んでいたので思わず購入。
先の「てふてふ荘」は、幽霊は出てくるが全然恐い幽霊じゃなかったので意識しなかったが、乾ルカは基本的には「ホラー作家」らしい。本作はちょっと恐い(というよりはグロい)場面も出てくるが、夜トイレに行けなくなるような恐さではないので安心して読んで下さい。
 
 精神科医の涼子の許に原因不明の異常なトランス状態に襲われる10歳の少女あや香がやってくる。その母親小百合は涼子の幼馴染みだったが、あや香の状態が快方に向かわないのでいくつもの病院を渡り歩いて悩んでいた。結局、涼子にも手におえず困っていたのだが、アメリカで医師として活躍している親友の祐美と連絡を取り、助言を求める。
 一方の祐美は、医療刑務所で不死身の死刑囚(2回死刑執行されても死なず、末期ガンに冒されているのに20年も死なない←ここらへんがちょっとホラー)と向き合ううちに、あや香と死刑囚を結ぶ驚くべきつながりにたどり着く。
 さあ、2人はあや香を救うことができるのだろうか?
 不死身の死刑囚は何故死なないのだろうか?

 「設定にやや無理があるやろう」というつっこみはあるだろうが、話の展開は息をつかせないし、2人の女医のそれぞれの心理も2人のつながりもよく描かれている。
 やはり、乾ルカは面白かった!!

                          (2012 11/27)


読 書 日 記(34) 万 能 鑑 定 士 Q の 事 件 簿

  『万能鑑定士Qの事件簿』1〜12  松岡圭祐    角川文庫 各540円
  『万能鑑定士Qの推理劇』1〜2
  『特等添乗員αの難事件』1〜2
  『万能鑑定士Qの短編集』1              これだけ 580円

 松岡圭祐は「千里眼シリーズ」などですでに人気作家だった人だが、私は読んだことはなかった。
2011年の秋に六甲の本屋に『万能鑑定士Qシリーズ』がずらりと並んでいたので「試しに1冊」読んでみた。
たちまちハマった!!
10か11まで出ていた頃だが、1ヵ月で10冊読んでしまった。

 「人が死なないミステリー」というウリだが、それ以上にヒロイン凛田莉子が非常に魅力的だ。
沖縄の離島の高校の劣等生だった莉子は美人だが周囲をあ然とさせるほどのチョー天然少女だった。卒業後上京してきたが、就職試験は失敗続き。それを拾ってくれたリサイクルショップ店長の教育によりみるみる知識と知恵をつけていき、今やどんなものでも正確に鑑定してしまう「万能鑑定士」に成長している。
 その勉強法もきちんと書かれており、教師である私が読んでも「まあそういう人もいるだろうな」と思わせて無理がないのがミソ。

 「こんなにたくさん読めないヨ」という方には、最新刊である「短編集」をまず読んでみることをお薦めする。
凛田莉子を気にいったら「事件簿」シリーズにかかって下さい。

                          (2012 11/27)
        

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