法学ノート


判例百選を読みつぶす


2006.02.23 動機の錯誤
2005.10.02 憲法変遷
2005.08.28 刑法188条について


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2006.2.23 <動機の錯誤>


 判例によれば、動機の錯誤のケースで、表意者は原則として無効を主張することはできない。動機が表示された時のみ、表意者は動機の錯誤を主張して、無効を援用することができる。これはなぜだろうか。

 まず、錯誤を、意思と表示の不一致だととらえるのならば、動機が表示されたときの動機の錯誤においては意思と表示の不一致がないから、錯誤はないということになりかねない。ある物を100円で買う意思がありながら、「1000円で買う」と間違って言ってしまった場合には、意思と表示の不一致があるといえる。だが、地価が急騰すると思うからその土地を買うという意思で、「地価が急騰すると思うからその土地を買う」と表示した場合には、意思と表示の不一致はない。このような場合には、原則として、意思主義の立場からは錯誤を主張できないはずである。

 だから、意思と表示の不一致とは別の観点から錯誤の成立を考えなければならない。ひとつ考えられるのは、動機が表示の内容となれば、相手方はその動機をチェックできることに注目することである。「地価が急騰すると思うから」と表意者が言った場合、相手方が、絶対に地価が上がらないことを知っていれば、そのような相手方を保護する必要はない。この場合は、表意者保護の観点から無効として良いと思う。

 問題は、相手方が錯誤について善意の場合である。相手方もまた地価が急騰すると思っていたらどうなるか。この場合は相手方も保護されなければならないだろう。それでも表意者を保護したいのならば、たとえば契約を条件付のものと見なすことも考えられる。表意者は「地価が急騰するならばその土地を買う」という表示を行ったと擬制するのである。だが、これでは法律行為を不当に解釈したといわれても仕方がない。動機を表示するのと条件をつけるのとは違った意思表示である。

 結局、錯誤を真意(錯誤がなかったら抱いたであろう意思)と表示の不一致であると捉えざるを得ないと思う。この場合、動機の表示のない動機の錯誤もまた原則無効となってしまうが、動機の表示がない場合は表意者に重過失があると考えて有効とすればよいのではないだろうか。

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2005.10.2 <憲法変遷>


 憲法は基本的人権などの基本価値を守るための法律であるが、社会の変化に伴い、そのままでは社会の現実と齟齬をきたすことになりかねない。憲法の社会への適応は、まず解釈の変更によってなされるが、解釈の変更だけではもはや適切に適応できない事態も生じてくる。(憲法9条と自衛隊の関係を考えてみて欲しい。)本来ならそこで憲法改正が行われなければならないが、日本国憲法は硬性憲法であるがゆえに、改正の機会を得られないまま違憲の憲法運用がなされ、それが国民の間にも定着してしまうという状況が生ずる。これが憲法変遷である。

 だとすると、憲法変遷の内実とは、違憲の憲法運用が法的確信となり、憲法慣習法が成立して、その憲法慣習法が憲法規定を駆逐してしまうという現象なのだろうか。だが、慣習法が制定法を破るというのは法原則に反する。そこで橋和之教授は次のような説を提示する。つまり、実効性を失った憲法規定は「仮眠」に入り、法の欠缺の状態となっていて、その欠缺を憲法慣習法が埋めているというのである。

 だが、たとえば刑法だったら、社会の実情とそぐわない堕胎罪のようなものが仮眠に入るというのも、謙抑主義の観点からはうべなえるが、憲法は国の最高法規なのである。もちろん仮眠に入るためには国民の支持と長年の法実行がなければならないのだろうが、憲法に対する信頼を維持するためには、すみやかに憲法改正を行ったほうが良いと思われる。

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2005.8.28 <刑法188条について>


 刑法188条は、1項で礼拝所不敬罪、2項で説教等妨害罪を定めている。だが、これらの規定は政教分離原則に違反しないだろうか。

 政教分離原則の趣旨は、@政府が公認した宗教以外の宗教への弾圧を防ぎ、信教の自由を保障する、A政府と結びつくことによって宗教が腐敗することを防ぐ、B非合理的な宗教が政府と結びつくことによって政治の領域での理性的討論が妨げられることを防ぐ、というものである。この観点からも、188条が違憲でないことが分かるだろう。188条は特定の宗教を保護するものではなく宗教一般を保護するものだから、少数派への弾圧はそもそも生じない。だから@の趣旨に反しない。また、この程度の罰則を定めたからといって、政府と宗教の関わりは決して深くないわけであり、宗教が腐敗したり政治の領域に宗教が持ち込まれたりするわけではない。だから、ABの趣旨にも反しないことになる。

 目的効果基準を用いても、188条が違憲でないことが分かる。たとえ規制の目的が祖霊や神々への宗教的心情あるいはそれにもとづく宗教的秩序を守ることにあるとしても、つまり、目的が宗教目的であるとしても、その効果は、宗教に援助・助長・促進あるいは圧迫・干渉するものではないからである。

 以上より、刑法188条は合憲であると思われる。

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