「お祭りに行かないか」 楸瑛が絳攸を誘う。 城下で行われる花火大会。夏のお祭りといえば、これだ。毎年恒例の。 そして、決まって絳攸の返事もこうだ。 「お前、女性と行かなくて良いのか」 「波風を立てたら、罪だろうからねえ」 (お前の存在自体が、罪作りだ!!) 「それに、この日は、君の誕生日じゃないか。それとも硯でも贈ろうか?」 「いらん」 「そんな、ばっさり言わなくても」 「男から贈り物をもらったって嬉しくないぞ!」 「おや、それなら女性からなら、欲しいのかね」 「!!」 「じゃあ、こうしよう。夏休みもない君に、 私から主上に言って特別休暇をもらってやろう。君は休みが欲しいだろう?」 「たんに、お前が休みたいんじゃないのか」 「はは。そうとも言うね」 「…でも確かに休みは欲しいな」 「じゃあ、言ってくる」 「今か?」 「善は急げというだろう」 そもそも、絳攸の仕事は主上付き。最近は政務をきちんとするようになったので、 以前よりかは確実に負担は減ってきている筈だった。それなのに…養い親のせいで。 「まったく紅尚書にも困ったものだねえ」 「其れを言うな!!聞いただけで暑くなるっつ!!」 養い親こと、紅黎深。彼に逆らえない絳攸の仕事は益々増やされている。 顔を見るたびに言われるのだから、たまったものじゃない。 彼は冬期休暇も夏期休暇も潰されたのだ。 ばたん。 戸が閉まった。 かと思えば、また開く。 「どうした」 「いや、そこで主上にばったり」 彼の手が劉輝の手を握っている。 「どこへ行く気ですか」 絳攸は、劉輝の腕を掴む。 「離せー!!余は秀麗の元へ行くんだー」 「道理で」 彼は浴衣という軽装。 目的は花火大会だろう。そうはさせるもんか。 「いや、主上。今から行っても邸に秀麗はいませんよ。この時期、賃仕事は沢山ありますからね」 「そんな」 「それに行ったとしても、親子見ずいらすのところを邪魔するおつもりですか」 「うっ、静蘭もいるぞ!!」 「静蘭は特別です。家人です」 「さ、仕事仕事」 「休暇を延ばしてやるから、連れてけ!!」 「駄目です。駄目ったら、駄目」 ---------数時間後。 「ふぅ、今日も遅くなったね」 楸瑛の妹が、花火大会用に縫ってくれたという浴衣を二人して着ながら、 彼らは帰宅の途についた。 「花火大会は、また次の機会にでも」 「懲りない奴…」 ふわり、ふわり。 「あ」 思いがけない光景に、二人は目を丸くする。 彼らを慰めるためか、紺碧の都に珍しい蛍が飛び交っていた。 おしまい。