リスボンで生活を始めて数ヶ月たったころのエッセイです。
当時はまだ通貨もユーロではなくエスクードでした。10年一昔だから状況は違っているかもしれません。でもどんなに急速に時代が変化してもあそこのあの人たちは長年のやり方で人生を見つめ惑わされることなくでやっていくだろう。
                                               
 そんなことを考えながら昔の文章を読みました。        

ポルトガル普通の人々                     


                                             
この国に来て気になること。それは、ひとびとの視線である
ここの人は、良く見る。旅行で一時的に訪れた人は、どう感じているかわからないが、日本人のような人をじろじろ見てはいけない国から来た人は、すっごく、いやな感じがすると思う。なんか文句でもあるのか、それとも自分が変なのか、憂鬱になるくらい。「きっと人種の問題かな」なんて思う人も。「ここはきっと、ヨーロッパの田舎だから」なんてひとりでそう決めつける人もいるかもしれないくらい、悩んでしまうぐらいである
ポルトガル人は「とっても親切で、何処かなつかしさを感じる国」なんて、数少ないガイドブックにそうは書いてあっても、こんなにじろじろ見られるとはどこにも書いてない。まあ、そんなこと数日間の休暇を楽しみにきている人にとって、大したことではないかもしれないけれど、あまりじろじろ見られるのも、気持ちのいいものではない。

                           

今日は、買い物に行きましょう。
あの大きなスーパーハイパーマーケットまでいってたくさん買い込もう。張り切っていくぞお。などといきごむ。広く暗い地下駐車場からカートを押して、エスカレーターを上る。エスカレーターはよくとまることもあるけど、この大きなカートがうまいことすべらなくなっていて、降りるときも手で押さなくても簡単に降りられる。日本のエスカレーターで、ベビーカーを降ろすときの、緊張や心配と無縁。(もしかしたらそんなことは危険なのでしてはいけないということだったけ…)とにかく、その心配はない。しかし、いつも思うことは、すれ違う人々の視線。一直線に伸びただけのエスカレーターは当然上りと下りとある。ということは、今日もたくさんの人々とアイコンタクトをとれる。それほど、ほとんどの人と目があう。顔が見れる、見られる。次のひとも、次のひとも、また次ぎのひとも。

今日は、散歩にいきましょう。
天気も気分もいい。アパートの鍵を閉めて、エレベーターを呼ぶ。ここのエレベーターのドアは手動式で、扉を自分で開けて乗り、開けて降りる。ボケボケしているとすぐに次の階にいってしまう。今ではすっかりそんなことにも慣れた。エレベーターがきた、勢いよく開けて、開けた本人がびっくり。上の住民がすでにその動く箱の中ちょこんと収まっていた。なんとなく人が入っているトイレを間違えて開けてしまったような感覚に似た驚き。自動じゃないから起こりうるびっくり。
「どうそ」とスーツを着た先客がスマートに言う。礼をいって乗り込み「おはようございます」とあいさつした。でも、もうすぐ昼に差し掛かっている時間に気づき、「こんにちはかな」と私のできる精いっぱいの愛嬌を見せると、腕時計をみて「おはようございます」と余裕の笑顔をみせた。


歩きだして、しばらくしてカフェにでもよろうと思う。
ここは、カフェと銀行のおおいところ。ビカというデミタスにそそがれた来いコーヒーを注文する。このコーヒー、凄く安くて、すぐにでてくる。小腹がすいたのでお菓子なんかも食べようかと思う、でもなんという名のお菓子だろう。カウンターのショーケースに並ぶチョコやカスタードのお菓子。注文ついでにウエイター尋ねれば、事細かに教えてくれる。となりでビカを飲んでいる客まで会話に加わってくる。人と言葉を交わさないでいるほうが、この国では難しいんではなかろうか。言葉を交わすのに充分な語学力など、まだ持ち合わせていない。あいての言葉が半分わかっているかどうかぐらい。それでもコミュニケーションとしては充分成り立つ。そんな事が私を気持ちよくさせてくれる、不思議な国。人の目が気になって、なんとなく憂鬱にさせる国。あれも、それも、ポルトガルの人々の仕業。
でも、もう数ヶ月ここですごしてみると、実は、はじめのころに感じたようには目を気にしていない。
「みたいものみてなにがわるいのだ」と考えたみたり、人を見ないことのほうが不自然にかんじるようにさえなってきた。今度機会があったらポルトガル人に聞いて見てもいいけど、そのころには自分も同じように人をじろじろ見たりするんじゃなかろうかと思う。


                                                 
今のメモ♪
ポルトガルの人って日常で見る顔が凄く大事で、顔見知りだけでも回を重ねると特別な親しみの感情を持ってくれるから、市役所の人、バスの運転手さん、パン屋お姉さん。駅でよく見かける物乞いのおじさんまでも私を懐かしく思ってくれると思う。 
いつかまた会いたいな
                                                                                 
                    

Dia aDia