WALKOVER+
01

それは真夜中に珍しい来訪だった。
仕事上、四六時中一緒にいることが多いためかハボックが突発的にこの家に来ることは皆無であり、またこの家に上がる気があるなら、大概私を送ったその足でずるずると上がり込むのが常だった。

少々の驚きをもって玄関を開ければ、そこには非常に気持ちよさ気に酔っ払っているハボックが手持ち無沙汰に立っていて、私を見るなりにこーと笑った。おそらく泥酔に近い状態なのではなかろうか。こんな風にまで酔っているハボックはそう記憶になかった。
実に珍しい。――そして、大変興味深い。
寛大な上司である私は中に入りたそうにもじもじしているハボックを迎え入れた。廊下の明かりにすら顔が赤らんでいるのがはっきりと分かる。
「飲みすぎて、金がなくなりでもしたか?」
コーヒーの1杯でもご馳走してやろうとハボックに背を向けた瞬間、強引に二の腕を引っ張られ、体が反転し、正面からぎゅううと硬い大胸筋や腹直筋、上腕二頭筋に挟み込まれた。それはちゃんと手を抜かずに日々鍛えられている筋肉。私は言い知れぬ深い満足感を感じ、お気に入りの外腹斜筋を撫でながら、広背筋をたどって、三角筋に手を添え、硬い大胸筋に頬を摺り寄せた。
この真面目さが尊い…。

ハボックは私の頭に何回も唇を落とし、私を甘やかす動作で必死に私に甘えていた。
ハボックは2人きりになるとしばしばこのように甘えてくることがあった。全身を使ったこの無言の構ってほしいアピールはまるで飼い主に長期間相手をされてなかった犬を思わせる。しかも、大型犬だ。犬好きを自認するこの私が可愛くないと思うことなんて全く持ってありえない話だろう。むしろ、とことん構ってやろうという気概すら湧き上がってくる。
――だが、しかし、現実はそうままなるものではない。いつもがいつも遊んでいられるほど暇を持ち合わせていない私はそんなハボックを駄々っ子をあやすように何回も広く硬い背中を優しく叩いた。たっぷり遊んであげられないんだと気持ちを込めて。
「お前がこんなに酔っ払っているのをはじめて見たぞ?――ほら、キスはいいから。どうした?」
ぐっと、大胸筋から顔を離すと太い腕の力が緩んだが、ただ緩んだだけで、甘えたりないとばかりに今度は額や瞼にキスを繰り返す。
「ハボック?」
「あー、アンタの匂い嗅いだら勃っちまいました…」
満面の笑みを浮かべたままハボックは、照れを含ませながらもうれしそうにソレを私の腰に押し付け、えへと笑った。
まるで、発情期の犬そのものじゃないか。
思わず苦笑を零すと、ハボックは私の頭を両手でがっしと掴み、私の額にごちんと自分の額をぶつけて、えへへと更に笑いを深めた。
「こら、ハボック。痛いだろう?」
上機嫌な酔っ払いは私の頭を掴んだまま、にこーと笑うだけだった。腰に当たっているソレの硬さは変わらない。
「あのですね。今日はものすっごくいい日だったんスよ。仕事はうまく行ったし、メシもうまかった。打ち上げも楽しくって、酒もうまくて。夜空はきれいで、夜風も気持ちいいし。――あまりに楽しくって、アンタに会いたくなっちまったんです」
そして、ハボックはちゅっと派手な音を立てながら髪越しの額にキスを繰り返す。
「――そうか、それは良かったな」
そういうことをわざわざ報告しに来るとは。全くもって、可愛い奴だよ。
後頭部を鷲掴みにしたままの酔っ払いの手を引き剥がせば、素直に剥がれはしても今度は強引に腰に回った。
「ねえ、大佐、ハメたいって言ったら怒ります?」
ハボックは健康的に日に焼けた頬をさらに赤くして、顎を引き、私の顔色を伺うように上目使いで言った。言ってる内容は甚だ常のハボックなのだが、私はどこぞの乙女を相手にしている気がしてきて、くらりと目眩を覚えた…。
「お前なあ…」
「だって………」
「ホークアイに去勢されたいのか?」
「えー!まだ、仕事してんスか?!」
ハボックは驚きに漸く腰からも手を離し、非難の声を上げた。
さもありなんだと肩を竦めて見せれば、じわっと青い目が涙で揺らぐ…。
「本当に、仕事ばっかり…。少しぐらいオレと遊んでくれたっていいでしょ?こんな勃ったまんまじゃ帰れないっ!」
「……………」
梃子でも動かされまいとハボックはその場にしゃがみこんだ。そして、そろそろと私を見上げてグスと鼻を啜った。
「酔っ払いめ……」
でも、まあ、これはこれでなんか面白いからちょっとぐらい遊んでやってもいいかなと迂闊なことにその時私は思ってしまった。
そう、気分転換だ。うん。そうだとも。きっと、ここで気分転換をした方がまだまだ山積みの仕事が捗るに違いない。
そんな言い訳とも付かないことを考えた。

「咥えてほしいか?」
「――アンタの尻で…」
先ほどまで絶望に顔を歪ませていた酔っ払いは、瞬く間に表情を一変させ、えへへとしゃがんだまま笑った。その満面の笑顔があまりに眩しく、同時にこっちはまだまだ仕事が終わらない身であることを思うと腹が立つこともまた事実で。――思わず、足が出た。
ただの八つ当たりの私の前蹴りを大人しく受けて廊下に転がったハボックは生意気にも転がったまま非難を込めて見上げてくる。しかし、すぐにこんな理不尽な扱いはいつものこととばかりに、酔っ払いは直ぐ角を丸くして譲歩を口にする。
「――口。口で咥えてほしいっス。はい。ね?」
床に寝っころがったまま、ちょんちょんと私のボトムの裾を引っ張って…。
むらむらと嗜虐心が頭をもたげた。
「可愛くおねだりできたら咥えてやろう」
「――可愛く……」
見る見る内に、その暢気な顔が悲嘆に暮れていく。
「オレ、デカいんでムリっスよ」
お前は小さいものが可愛いのか、おい。
「オッパイもないし…」
うつぶせに背中を丸め、顔を覆って、またグスと鼻を啜る。その大きな手で目元をゴシゴシ拭きながら、オレなんかイジメて楽しいんスか?とスネたことを言った。
おお、なんて愛らしいんだ。
満足感と充足感と、幾許かの嗜虐心を満たされた私はハボックの脇に膝を付き、その丸まった背中を数回あやすように叩いた。
振り返った目には、まだ疑いの色が残っていて。
「――好きなコほどイジメたくなるんだよ。ほら、ペロペロちゅうちゅうしてあげるから、自分で出してごらん?」
私の言葉にハボックはぱあっと後光が射すように笑みを浮かべた。いそいそと立ち上がっては既に半勃ちのソレをごそごそと、膝を付いたままの私の顔の前に引きずり出し、さあ褒めてくれと言わんばかりの顔を見せた。


02

その期待に彩られた顔にどうも逆らいきれず、ため息と共にソレに唇を寄せた。玄関前の廊下でどうしてこんなことをするハメになっているのかなんて考えたくもない。

「あ!ちょっと待って!タマ出すの忘れてました!」
ハボックは、やっぱり今のは冗談だと言われることを警戒してか、私の頭を股間の前でがしっと片手で押さえたまま、もう一方の手をごそごそとパンツの中に手を突っ込んだ。中から外に、お望みのタマを出すために。しかし、片手では上手く出せず、ついには焦れたようにベルトを外してボトムとパンツを一緒にずり降ろした。半勃ちのモノがパンツに引っかかって、なかなかに時間が掛かったが…。

尻に半分引っかかったパンツがあまりに滑稽で我慢できずに噴き出すと、その呼気がくすぐったかのか、気持ちよかったのか、ソレがまた一段と勢いを増した。
「んじゃ、よろしくお願いします」
左手でサオを押さえて、タマを突き出して、でも一応頭を下げて。ハボックは私の頭を押さえていた手を控えめに前へ動かした。好き勝手使われることを嫌ってハボックの腰に手を添えれば、それだけでハボックの力が抜け、その手が詫びるように優しく頭を撫でる。



見慣れてしまった立派なソレに挨拶代わりのキスを落としてから、舌を這わせる。始めは微かに触れる程度に形を辿って。亀頭の裏を舌でくすぐると一瞬だけぴくっとハボックの体が小さくは跳ねて気持ちよいことを教えてくれる。その様が可愛らしくて、またキス。今度はねっとりと唾液を絡ませてカサをでろでろに濡らす。廊下の暗い明かりにすら鈍く濡れている様を見せるほどに。ハボック本人よりもずっと純情なムスコはたったこれだけで先走りを漏らした。また、ご褒美にキス。濡れる先端に触れるだけのキス。
「――あの、大佐、すっげえ、くすぐったいんス、けど…」
もっとちゃんとしてと頭を撫でていた手に力が入り、べちゃりと頬にソレがぶつかった。しかも、腰を小刻みに揺らして顔に擦り付けてから、タマを押し付けてくる。
「コイツらが寂しいって、ねえ、大佐…」
黒い前髪を後ろに流して優しく優しく撫でながら、急かされる。焦らして片方に舌を伸ばしてちろちろ舐めて、ハボックを伺えばいつもの眠そうな顔がしかめっ面で。
「――大佐…」
我慢できませんとその目が言っていた。

口に含み、タマ裏に舌を差し入れ、転がして、吸って吸って吸って、舌でくすぐって。放っておかれてる片方は手で揉みながら。息継ぎをするように口を開けば唾液がこぼれて首を伝い落ちて行った。その濡れた感触は内股を伝う精液を思い出させる。愉悦をリアルに思い出した体は小さく震え、股間がゆっくりと熱を持って張り詰めていく。――熱い…。
「……んっ…」
息苦しく漏れた鼻声にハボックがまたピクリと体を硬くした。
「ん、―大佐…、最高…」
望んでいた愛撫に蕩けた声がして、見上げた瞬間、べちんと生温かいモノが顔面に落ちてきた。ぬるりとしたモノが頬を濡らし、赤黒いモノが視界を塞ぐ。――顔を揺すってこの屈辱的な行為を止めさせたいのに、ハボックの手が頭を押さえていて首を振るのもままならない。
「すげ…」
その感嘆に満ちた声が更に癇に障った。しかし、顔を濡らす先走りの量の多さにて目を開けることもままてならない。
もっと吸ってほしいんスけど…。もう片方もよろしくお願いします…。アンタの顔、オレのででろでろっスよ…。いやらし…。
酔っ払いはいつもと違い、自分の欲に忠実だった。

タマといえどもそれなりの大きさを誇るソレは長々と口の中で転がせば苦痛をもたらす。顎が外れそうな感覚があって眉を顰めて口を離せば、ハボックが慰めるように頭を撫で、髪を整える…。しかし、それは次を期待する優しさだった。撫でる手は既に体に溜まりつつある熱を煽るように耳の裏をくすぐり、項を撫で上げる。身を捩れば、休憩は終わりとばかりに勢いを維持したままのソレが濡れた唇をノックした。
サオの横側から上唇と舌で挟んで先端から根元まで数回往復して、両の手で握ってもまだ余るサイズのソレを口に含んだ。

ハボックのコレを舐めるのは嫌いではない。本人よりもずっと純情で素直で可愛らしく、しかも私を快楽に導いてくれるのだから。ただ大きすぎるのはいただけない。口に含んでしまえば、直ぐに顎が痛くなり舌が攣れてしまう。今夜のように絶好調なハボックは犬のように腰を振って喉の奥にがんがん叩きつけてくることが多く、そうなるともう息すら満足にできなくて、噛み切ってやりたくなることも少なくない。
亀頭の裏にねっとりと舌を絡めて音を立てながら浅く出し入れを繰り返し、まだ深くは咥えない。
「時々…、思うんスけど…。――ん…、あ、そこ、最高…、オレより、コイツの方が、扱い、いい気が…」
リクエストに答えてソコを一舐めしてから口を離した。亀頭だけを口の中に入れただけなのにもう顎が痺れてきた。
「ん…、お前…。自分のムスコに嫉妬してどうする」
「――だって!嫉妬すんのが男ってもんでしょ!アンタ、絶対コイツには歯立てないし!いっつも蹴られてるオレの立場って、ねえ!?」
自分の扱いが理不尽だとハボックが憤り、ソレを益々怒張させた。ソレもお前の一部であるだろうに。
「――仕事をまだ終えていない、私がこうもお前に付き合って遊んでやっているのに、何だって?」
凄んで睨みつければハボックは直ぐに意気消沈する。しかし、打たれ強く生まれついている分、懲りることを知らない。すんませんともごもご口の中で呟いて、欲に濡れた目が静かに行為の再開を促した。
ハボックの親指が顎を辿って唇を割り入り、唾液を絡め取って出ていった。


03

ハボックの両手がマスタングの耳を塞いだ。
そうすると、もう、頭の中はソレが口腔内の唾液をかき混ぜる音だけしかなくて、マスタングにこれ以外の世界を知覚できなくさせた。
「…はっ…ん……」
先の見えない深い快感が身の内から止め処もなく湧き上がり、マスタングは窮屈に感じていたボトムのベルトを外し、ジッパーを降ろした。もう十分に育っているソレを取り出して手を這わせる。
マスタングが自慰を始めたことに興奮が最高潮に達したハボックはゴールに向けて疾走しはじめた。手の中の頭を前後に動かしながら腰を振る。息苦しさにマスタングの目尻から流れる涙が一層ハボックの興奮を煽った。
叩きつける衝撃を少しでも防ぐために舌がソレを押し出そうと無意識に裏筋を強く擦った。しかし、それでも口の中を穿つ強引さは変わらない。それはまるでもう緩んでいると勘違いしてしまいそうな後孔を穿つ動きそのものだった。後孔が覚えてしまった刺激を求めてひくついている。
「――吸っ、て…」
それで終わるなら吸ってやってもいい…。
奥まで入れられたソレを飲み込むように吸った。あまりの苦しさに涙が止まらないが、それでもまだ終わらない。
ハボックはマスタングの口から長いソレを引き出してはまた入れる。それを繰り返した。少し赤く腫れた濡れた唇からソレを引き出せばピンク色の舌がソレと一緒に付いてきて、ゆっくりと引っ込む前にソレを舌に乗っけて奥まで突っ込んで。
喉も唇も顎も痺れ、唾液を嚥下できずにいる開いたままの口からは唾液が零れ続け、ハボックが抽挿を繰り返す度にじゅぶじゅぶと派手な音が立った。
視覚からも聴覚からも脳が犯されていく。唇が震え、マスタングは懇願するような目でハボックを見上げていた。
「そのまま…、オレの咥えて、イって…。そうしないと、終わんないっスよ…」
くちゅくちゅと浅く深く口内を行き来する硬く熱いモノを舌の上に感じて、自分がコレに穿たれているところを想像して手を動かした。後孔がひくつきうねる浅ましさに体が疼き、腰を振り、亀頭に爪を立てた。マスタングはハボックの言うがままに、射精した。
「あー…、いやらしい…」
ハボックは満足し、慈しむように目を細め、慰めるように未だ自身を咥えたままのマスタングの黒髪を梳いた。そして、腰を落とし激しく腰を前後に動かしマスタングの喉の奥に射精すると、すぐさま口から引き抜き、自分で数回擦ってマスタングの顔に向かって搾り出した。



「はあー…、えへへ、いっぱい出た…。ね…、気持ちよかったっスか?」
激しく咳き込み俯くマスタングの頭を起こして、自分の精液に濡れるその白い整った顔をじっと見つめ、ハボックは清々しいほどの達成感に満たされた。
ロイ・マスタングに顔射をしてしまった。オレって、すっげえ。
しかし、マスタングの眉間にはくっきりとしわが刻まれていて、ハボックは言葉にできないほど気持ちよかった手前ひどく不安が込み上がった。そして、このままマスタングの強い怒りの浮かぶ顔を見ていられなくて手を離した。
オレのを咥えて自分で扱いちゃうぐらい気持ちよかったはずなのに、どうしてそんな顔をするんだろう…。

ハボックはそれでも気持ちよかったというマスタングの言葉がどうしても聞きたくて、口元を押さえてまた俯いてしまったマスタングの顔を追った。しゃがみこみ、更に体を屈ませて下からマスタングを覗き込む。すると、それを待ってましたとばかりにマスタングが勢いよくハボックの胸倉を掴み上げた。突然なことに驚き目を見開いたハボックはもう片方の手で鼻を摘ままれて、反射的に口を開いてしまった瞬間、濡れたままのマスタングの唇がそっと寄ってきて、ハボックの唇を奪った。
いつもは白いマスタングの頬が濡れて紅潮している様に目を奪われてると、マスタングの口から青臭いどろっとしたモノが流れ込んでくる。
胸倉を掴んだマスタングの手は仕返しとばかりにハボックの頭を掴み取り、容赦なく髪に絡みついて、ハボックが自分の精液に嫌がって頭を振れば振るほど金色の髪の毛がぷちぷち抜けていく。その容赦のなさに竦んでしまったハボックに万力のように鼻を摘む手を外すことなどどうにもすることはできず、成すすべなくソレを飲み込んだ。
「……………」
――何で?どうして、オレが自分のタネ、飲んじゃうの…?
膝を付いたままのマスタングを見上げるハボックの目には、ひどい意地悪をされたという色が浮かんでいて、マスタングの精神をさらに逆なでした。
――どうしてそんなモノ飲ませようとするんだ!異種タンパクの粘膜吸収の危険性なんて今まで腐るほど説明してやったじゃないか!お前が中出しした翌日の具合の悪さはそれが主な原因なんだぞ!この、能無し!!
マスタングはハボックの頭から手を離し、手のひらに付いた金髪を払い落としてから、ここ一番の柔和な笑顔をハボックに向けた。
「お前のたんぱく質だ。舐め取りたまえ」
白い精液に濡れた笑顔の中に巨大な怒りを見たハボックは無言のままじっと固まっていたが、命令が撤回される気配のなさに、さっきまでの高揚した幸福感や充足感が一気にしわしわと萎えて行き、これ以上マスタングのご機嫌を損ねないように、伸び上がって白い頬に舌を這わした。

それでも単純なハボックは舐め取ると言う単純な作業に没頭し始める。整った顔を思う存分舐めると、今度はマスタング自身の精液に濡れた手を取って舐める。それはお前のたんぱく質ではないとマスタングが言って手を引いても、ハボックは手を離さなかった。爪の形を辿り、指一本一本を口に含んでしゃぶり顔を前後に動かし、指の股を撫で。明らかにハボックは楽しんでいた。
「――ハボ…」
これでは日頃の私の努力が徒労に終わり、その上嫌がらせにも何にもならないじゃないか。
思わず漏れた大きなため息に、沈んだ気分はもう忘れたらしいハボックがにこっーと笑って、そのまま、外気に項垂れて露出したままのソレにも舌を這わす。精液を舐め取るだけの、そんな優しい愛撫だった。くすぐったさが先行するような。
一通りきれいに舐め取ると、ハボックはまた伸び上がりと鼻先を鼻先をくっつけて、さも褒めてと言わんばかりにじっと見つめてくる。
「ワン!」
一鳴きして、べろんと頬を下から上へ舐めて、えへへと酔っ払いは機嫌の良さを取り戻した。全く。釣られて笑いの衝動が湧き上がる。
上機嫌な酔っ払いを前にしては嫌がらせも満足に通用しない。そう、酔っ払いの相手なんかまともにしていたら馬鹿を見るだけだ。
ハボックが笑いの余韻の残る唇角もべろんと舐めて、クウンと鳴いた。機嫌直して、そんな感じだろうか。
込み上がってしまった愛おしさに任せて、お前の精液が口の中にも残っていると言えば、ハボックがこれ以上ないほどうれしそうに口を合わせてきた。


04

一生懸命フェラしてくれたお礼がしたかった。
すっごく気持ちがいいフェラだった。もうこの人以外に舐めてもらっても感じなくなっちゃうんじゃないかと思うほど。
ねっとりとして、温かくって、優しくて、柔らかくて、すっごくいやらしくて。
疲れたであろう口の中を労わるように撫で撫でしてから、すっごくいっぱい動いてくれた舌を根元から絡めるように優しく慰撫した。大佐が気持ちよさそうに身をゆだねてくれたから、そのまま大佐の腕を自分の肩に回して腕に抱えて立ち上がった。少し腰を下ろして壁に凭れて、開いた足の間に大佐を引き寄せて。思う存分蕩けるようなキスを。大佐の舌はオレの舌がしたいようにしてももうなすがままで、また股間に熱が溜まってきた。

キスを解いても、しばらくは抱き合ったまま…。



「――あ、そう言えば。オレ、銀時計預かってきたんでした」
乱暴に適当にいつものように脱ぎ捨てられた上着が床に落ちたとき、胸ポケットに入れてる銀時計の当たり所が悪かったせいでそれは動かなくなったんだと思う。いつも胸ポケットに入れられていた時計。その扱いの悪さに共感を覚えたりしてて。オレは手に取られなくなったその時計がちゃんと動いていないんだとぴんときて、手を伸ばして蓋を開けてみたら、やっぱりそうでさっさと馴染みの店に修理に出してしまっていた。
「今日はそれを渡すのが口実だったのに…、えへ」
忙しくばたばたした日常にあっても、修理屋からの連絡をずっと待ってたのに。アンタの顔見たら忘れちゃいました。
腕にマスタングを抱いたまま、ハボックは尻ポケットから銀時計を取り出した。それには修理に出したときはなかった銀の鎖が店主の好意で新たに付いていた。

ハボックはおもむろに銀時計を持ち上げて、口の中にそれを入れた。じっとマスタングを見つめたまま、飴玉をしゃぶるように舌で転がして。
マスタングが不穏な空気を感じ取って身を捩ってハボックの腕の中から逃れようとしても、腰に巻きついた腕がそれを許さない。そればかりか不本意にもボトムがすとんと床に落ちてしまった。
ハボックの長い足が片方、マスタングの足を割り開き、腰に回った腕がマスタングの体を強引に自分の足の上にぐっと持ち上げた。ハボックの太腿を跨ぐように立たされたマスタングはやや仰け反って、何かに掴まっていないと倒れそうでちょうど目の前のハボックの首にしがみ付く。離せば、頭から転倒してしまいそうな微妙な恐怖感があった。

耳元にちゃりと金属が擦れる音がした。見なくともわかる。それはハボックが口から銀時計を吐き出した音だ。
「ハボック!」
ふざけるな。いい気になるな。そのまま続けたらどういう目に合うかわかっているのか。もちろん、いつものように前髪を焦がすだけじゃすまないぞ!
マスタングの鋭い声よりも先にハボックはマスタングのパンツを片方たくし上げて剥き出しになった尻の割れ目に銀時計をゆっくり押し付け擦りつけた。
「――やめろっ!ハボック!」
後孔に強く押し付けてもただそれだけで入ることはない。それは十分分かっていても、そこで密かにひくつく熱に油を注ぐ行為だった。高ぶってしまえば口で何を言おうが、もう止まれなくなる。そんなことにばかり聡い男は本気で嫌がらなければ行為を中断することはなかった。
ハボックは銀時計に付いた唾液を塗りつけるように後孔の周りに執拗に銀時計を擦りつけた。その硬さと冷たさに後孔が収斂を繰り返す。気持ちが良いというよりは強烈な恥ずかしさが襲ってきた。顔と言わず体中が暑く、紅潮していくのを感じた。
「大佐……」
ハボックの声が興奮を伝える。
そこから金属の感触が遠のくと、今度は中指がそこを撫でた。周りのぬめりを塗りこむように指の腹が孔を押す。まだ中には入らず、撫でるだけ。もう、そこはもどかしさを訴えていた。
「ハボック!!」
「あ、今、締まった。怒鳴ると尻の孔って締まるんスね」
ハボックはまた銀時計をぐっと後孔に押し付けた。しかし、無理に入れようとはしないで、ただぐりぐりと締まった固さを確かめるように押し付けるだけだった。
肛門はずっと力を入れていられない。1分もしたらそこは自然にも緩んでしまう。そのことをハボックは分かっているから、強引なことはしないのだ。
そんなモノ、挿れられたくない…。
尻を振って嫌がってもハボックの興奮を煽るだけだった。悔しさにこれなら頭から転倒した方がましだと首に回した手を離そうとしたら、ハボックの腕ががきつく腰に回って、勢いを取り戻し気味のソレがハボックのわき腹に押し付けられた。
「―――ッ、んっ……!」
同時にハボックの高まりが太腿に当たった。
「ハボ…、………」
「――はい?」
覗き込もうとするハボックの視線から逃れるように厚い胸に額を当てて真っ赤になっているであろう顔を隠して言った。
「お前の指がいい……」
はい!とそれはそれは調子のいい声が返ってきて、――かちゃんと銀時計が床に落ちた音がした。

中指がそこを撫で回す。一度道ができてしまえば快楽に貪欲なそこは容易く受け入れてしまうようになる。力を失う頃合を見計らってはハボックが指を中に押し込んでは、引き抜く。そして、全部含むにはまだ硬い孔を慰めるようにそこを撫でた。
「――んっ、…ん……」
執拗に繰り返される行為に、そこがどんどん口を緩め、ひくついていく。ゆっくりとゆっくりと肛虐に慣らされる。少しずつ深く指が埋められていく度に、ハボックの首に回った手は頭に掛かり髪に絡んで金髪を容赦なく抜いた。
「こういうとこでヤって、朝見ると本当に可哀そうなぐらいオレの金髪が散らかってんスよね…。――オレが禿げたら、アンタのせいですから。責任とってちゃんとおヨメにもらって下さいね」
それでも、ハボックはそんなこと気にせずにマスタングのまだ小さく硬い孔を解すことにと夢中になっていた。

マスタングの額から汗が滴るように流れる頃になって、やっとそこはハボックの太い指を3本咥え込んだ。
「アンタにも、気持ちよくなってほしいんスよ。――アンタ、オレの、ここに入れちゃダメって言ったから…。ね、フィスト、挑戦してみます…?」
本当は舌をそこに奥まで入れて、たっぷり唾液を注ぎ込んでかき混ぜてぐじゅぐじゅ音を立てながら、うねる白い背中を見て、たっぷりあえぎ声を聞きたかった。もちろん、最後は熱く長くて硬い自慢のモノで中の肉を掻き分けて擦り付けて、ってしたかったけど。
「…バ…、カ……」
柔らかい内壁を内側から押すと、息も絶え絶えなマスタングの背が更に撓る。たったこれだけでマスタングは先走りを漏らしサオを滴らせて、押し付けているハボックのわき腹や跨いだ太腿を濡らした。

しがみ付いていたマスタングが体を起こし、そっとハボックにキスを求めて。
その瞬間、またハボックの腹と腿を熱く濡らしたが、ハボックは構わず指を激しく動かした。そこはもう待ち構えていたように、激しい動きに緩み蠢いた。
「……も、う……、んっ…、や……」
息を継ぐたびに唾液が零れ、ハボックの目の前にはマスタングの無防備な喉元が晒された。揺れる腰は指では足りないと言っている。
「――とろけてて、すげぇいい感じ。美味そう…」
調子に乗るなと髪に絡んだ手に力がこもっても、その甘い痛みに孔の中の指を動かせば、もう思うままに声が上げさせることができた。


05

指を深々と挿入され散々引っ掻き回された中がひどく蠕動して疼き、もう自分でコントロールできない。痒いような、くすぐったいような、もっと固いモノで穿たれたくて仕方がない。そんな飢えにもうじき支配されそうな予感に背筋の震えが止まらなかった。
「……んっ…」
太い長い指が遠慮なく内壁をかき混ぜて、無造作に出て行った。後孔が捲られる感覚に、腰が砕けそうな排泄感が立ち上り、後孔がひくついて口を開いた。早く早くと次を急かすかのように。
「――あっ………」
ハボックはできるだけ前立腺を触らないように、指を曲げないで奥まで入れては引き抜く。できるだけこの行為を長引かせたいとばかりに。直接的な刺激ではない刺激で。
いいように遊ばれている気がして腹が立っても、飢えに体がどんどん乾いていった。
「ア……、あ、ハボ……、も、う……」
強請る声に、ハボックの手が膝の裏に掛かった。持ち上げられた足先から下着がすばやく脱がされ、濡れた切っ先の上にぐっと体を持ち上げられる。
指よりも、長大なソレが入り口を潜ろうとする。
「――はっ…、あっ…、あっ…、ッ!」
身を裂かれる感覚はあまりに性急で。十分に解れたと言っても、ハボックのソレはカサが張っていていつも入れるのは無理な気がするほど大きい。しかし、潜ってしまえばもうハボックのなすがまま、喘ぎ、動くしかない。
ソレが欲しくても、何もかも明け渡さざるをえない悔しさが素直に欲しいと言わせない。
張ったカサがゆっくり飲み込ませられて、息すら満足にできなくなってついに亀頭部分を全部含ませられた途端、―――それはあっさり出て行った。
今までにない珍事だった。
大きさが失われて、ぬかるみ潤んだそこはそのサイズのまま口を開いている気すらする。もう、その熱さや大きさ硬さを知ってしまえば、体全部がそこに埋まっていないモノに切なさを感じて、涙が溢れる。どうして別々の体なのだろう。
「ハボっ……」
どうして、入れてくれない?





    +++





内壁を押すように撫でれば、入り口がひくついて指を締め付ける。その感触を味わいながら、ゆっくり指を引き抜けば、後腔全体がそれを嫌がるように締め付けてくる。その中を無理矢理引きずり出すと、体全体が震えてぐったりと力を抜いた。熱い吐息も縋りつく腕も甘かった。
もう入れて。そう、体全部がオレに訴えていた。
足を抱えて下着を強引に取り去って、柔らかくなったソコにぬるついている自身を擦り付ければ、大佐が陶然とオレを呼んだ。

指で思う存分かき混ぜたソコは緩んでいたがまだオレを入れるには固くて、ぱくぱく口を閉じたり開いたりしているソコに宛がって、ソコが亀頭を柔く噛んでくれる感触を味わう。ずっとこのままで味わっていたい気持ちを抑えて、腕に抱えた人を力を抜いてゆっくり下ろせばソレが綻びを開いて埋まっていく。奥に引きずり込まれる蠢きに逆らって孔を傷をつけないように歯を食いしばってゆっくりカサを飲み込ませた。
ここが男の見せ所だ。
亀頭部分が全部入ってちょっとほっとしてから、―――雷に打たれるように、唐突に、思い出した。
オレはこの人に入れるなと言われてたんだった…。
慌てて引き抜いたら、踏ん張りが利かなくてちょっと中に零してしまった。
どうして入れちゃダメなんだろ…。
泣きそうだ。
でも、首下に顔を埋める大佐が怒りに震えていて、なんかそれどころじゃない気がした。
怒らせたい訳じゃない。オレは大佐にも気持ちよくなってほしかっただけだったのに。オレばかりが気持ちよくって幸せでって言うんじゃなくて、一緒に幸せになりたいだけなのに。どうして上手く行かないんだろう…。
「あ、その、――怒ってます?ちょっと間違っちまいました。本当に入れる気はなかったんスよ。マジで!オレの、入れんなって言うから、指入れたんだし…。その、本当にちょっと間違っただけっスからね…」
「ハボっ……」
向けられた瞳は涙に濡れて非難を訴えていた。でもそれはどちらかと言うと入れたことへの非難と言うより…。
体で確かめるように、後孔に指を這わせれば、待ってましたとばかりに緩んで受け入れて締め付けた。それは2本にしても3本にしても変わらない。むしろ、喜ぶように内壁が蠢いていた。激しく律動させたら、大佐が今日一番のイイ声で鳴いて、しがみ付き、腰を前後に動かす。
――入れてもよかったのかも。
大佐もオレにずっぽり入れてほしかったのかも…。
もっともっとと可愛くオレの指をおしゃぶりしておねだりするソコは、いつだってはじめはとっても固くて本当にオレのこと欲しいのかわかんなくなって戸惑う。
今は少し乱暴に抜き差ししてもかき回しても、きゅっきゅっとオレの指を締め付けて離したくないと奥に奥に連れて行こうとしてて、オレは確信に至った。
「――ん、もう。入れていいなら始めっからそう言ってくれればいいのに。――でも、これも焦らしプレイってヤツなんスか?あー、なんかまんまといいようにされてちゃってますね、オレ。でも、そんなアンタが好きなんスよ。あー、好き。すっげえ好き。だって、アンタ、すっごくいやらしいんだもん。オレ、こんなに若いのに、干からびちゃうそう。大佐のバカ。バカバカ。バカバカバカ!オレのこんなに搾り取ったってオレの子どもは産めないんスよ?」
ぎゅうっと湧き上がる愛のまま力任せに抱きしめた、もちろんもっともっとと言ってる孔に入った指はそのままに。

遊ばれてても構わない。2人分、オレが愛せばいいだけのこと。


06

あれほど離さないとばかりに絡ませていた腕をあっさりと解き、ハボックはマスタングを開放した。
「――ね…、欲しい…?」
それでも、ちょっとぐらい求められたいという素直な気持ちがむらむらと素直に湧き上がってきて、ハボックの言動を大胆にさせた。
「じゃあ、壁に手ぇ付いて、後ろ向いて…?自分で広げて見せて…」
そんで、もう、めちゃくちゃにして、って言って。
「――ん…、お前…、後で、見てろよ…」
烈火の如くマスタングに睨みつけられても、地を這う声を出されて脅されても、ハボックは怯まなかった。
「オレは今を全力に生きる男です。今が良ければいいんです!大佐、ほら、欲しいんなら、尻向けて!尻!」
悔しそうにマスタングが震える背をのろのろとハボックに向けて、壁に手をつけば、益々ハボックの確信を確かなものにした。
「大佐、シャツで肝心のとこが見えてないです!」
「お前…、私が、イった後で、五体満足でいられると思うな…」
「ムスコには手を出さないでくれれば、別にいいっスよ。アンタを悲しませたくないし、欲求不満にもさせたくないんです。頑張りますよ、オレ。はい」
「お前、腹立つ…」
期待に応えられるようにいつだって鍛錬は欠かしていません。人の2倍も3倍をやるのはアンタを満足させるためなんスから。これでも、いろいろ頑張ってんスよ。



マスタングが尻を隠したシャツの裾を手前に繰りよせると紅潮した小ぶりな尻がむき出しになって、ハボックの目の前に現れた。
「――自分で、広げて……」
上ずった声で美味しそうな尻を下から上へ撫でると、マスタングが大きな舌打ちをして、ゆっくりと自分の尻朶に白い手をかけた。そして、ゆっくりと左右に開く。ハボックが欲しいと泣いて濡れるひくひく動く小さなソコを見せ付けるために。
ソコは赤みを帯びて口を開き、中の肉を覗かせていた。
「人体って不思議ですよね。ちゃんと愛を持って撫で撫ですれば、オレのでっかいムスコだって喜んで受け入れてくれるようになっちゃうし。目下、オレの目標はあれっスよ。あれ。――何か改めて言うと照れちゃいますけど。ちょこっと舐めてもらったオレをぐっと押し込んだら綻んで入っちまうような…。そーいうの憧れっス。えへ。でも、もう半分は叶ってる気がすんですけどね。どー思います?」
見られることにすら感じるのか、その綻びがきゅっきゅと窄まると、中に少しだけ零してしまった精液が溢れてくる。内股を伝うと、マスタングの背がしなった。
ああ、もったいない。
ハボックは白濁のソレを中に戻すように優しく押し込んだ。ぐじゅっと、熟れた果実を思わせる音が立ち上がると、マスタングは待ちきれずハボックの指に内壁を擦りつけるように腰を前後に振り始めた。
ハボックは見るだけでイってしまいそうな強烈な射精感を味わいながら、指をぬかるみから引き抜き、もっと長くて熱くて大きいモノを突き刺した。そこはもう大した抵抗もなく音を立てて埋まっていく。だが、ハボックは後腔の蠢きに逆らうように殊更ゆっくりと根元まで納めた。早くと誘う、揺れる腰を見ながら。

深い陶酔感にもうこのまま離れたくなくなる。
ぴったり隙間なく重なって、硬い棒と柔らかい内壁は互いに絡み合った。
「………んっ…、あっ…!」
腰を回して、ちょっと引いて、出て行くと思わせた所を突いて、呼吸を乱すように、次を予測できないように動いて。耳からも犯すように、囁く。
すっげえ、ひくついてる。こんなになっちゃうほどシたかったんですか?
あんな風に焦らして、オレをこんなに煽って、めちゃくちゃにされたかったの?
硬くて熱いのに、ぐちゃぐちゃにされたかった?
首を竦めて小さく首を振って否定しても、ハボックが腰を動かせば、マスタングから喘ぎ声が零れ落ちて、その言葉を肯定していた。
壁に爪を立てていたマスタングの手が気づけば自身に絡みついていた。
もう少しこの味を味わっていたかったハボックは、強引にその手をソコから引き剥がして、元の位置に押さえ込み、肩や腹、足で体全体の動きを奪う。
「自分で、触っちゃダメですよ…?」
嫌だとばかりに頭を振られても、ハボックは聞き入れなかった。
内がうねる。うねって絞り込むようにハボックを奥へ奥へと誘い込む。
「――あー…、気持ちいい…。うねってますよ。中、ちょーうねってます。大佐…、大好き。幸せです…、オレ…」
「んっ、ん、んっ……!」
もどかしそうに小さく揺れる白い細腰を掴んで動けないようにしてしまうと、激しくうねる内部のうごめきが一層強くなってハボックに天国の味を教える。
「ん、んっ…、腰回しちゃって、大佐も、気持ちいいんスね。よかった…」

苦しそうに首を捻って、ハボックを見上げる黒い瞳はしとどに濡れ、もうどうにでもしてくれと言っていた。
腰を揺らしてほしい。
激しい注挿がほしい。
もうぐちゃぐちゃにして欲しい。
もう、イきたい…。
しかし、マスタングの唇は戦慄くだけで何も意味のある言葉を紡がない。
ハボックは決定的な言葉が聞きたかった。じっと、マスタングに覆い被さってそれを待つ。マスタングが堕ちるのは時間の問題だった。
深く差し込んだまま腰を緩く回して、ゆっくり引き抜いて、また、ゆっくり奥深く差し込む。出す度に入り口が亀頭のカサに引っかかって捲れ、ぐじゅと肉が擦れる音が響けば、マスタングが熱い吐息を漏らした。
「言って、大佐…。もうぐちょぐちょにかき回してって、言って…」
それでも言わない強情な人にハボックが強い一突きを叩きつけると、濡れた肉と肉がぶつかり甲高い音が響いた。



吐息が混ざった喘ぎの中についに、もっとという囁きを聞いて。
両手を捕まれたまま、両足をさらに開かれ、好き勝手に貪られ、揺すられる。容赦のない注挿に息を詰まらせて、自分でソレがイイ所を擦るように腰を振って。
最後は、深いオーガズムの中、自身を扱くことなく射精を繰り返した。体中の骨という骨がなくなったと思うほどぐにゃぐにゃになった体をさらに容赦なく揺すられて、ハボックがイった。体の奥に迸った熱が更に身を焦がした。


07

激しい行為にぐったりと身を沈めたマスタングを腕に抱いて、ハボックは体に残る余韻にうっとりと浸った。
今日はいい日だった。やっぱり、いい日だった。
しかし、腕の中の体はすぐさま力を取り戻し、あっけなくもあっさりと体を離した。
もっとこのままで、と言いかけた口を閉じたのはマスタングが不穏な笑顔を浮かべていたからだ。
「ハボック、何か言い残したいことはあるか?」
「―――は?」
何で、言い残す必要があんの?
オレ、なんかした?
マスタングは呆けたハボックの頬を思いっきり平手打ちした。
先ほどまで散々肉と肉がぶつかって響いていた音と大差はなかったが、色気も何も湧き上がらない。
ハボックはぶたれた頬を呆然と押さえたまま、ぺたんと尻餅を付いて、マスタングを見上げた。痛いというより、幸せ真っ只中での突然の暴力がショックだった。

「ああ、清々した!」
マスタングは脱がされたパンツを履き、ボトムに足を入れた。汗で濡れたシャツは面倒臭そうに脱ぎ捨てる。黒髪はお互いの精液で固まっているところもあったが、その姿からはどんなに探してもさっきまでの匂い立つような色はなかった。
「――なんでぶつんスか!ひでえ!ドメスティック・バイオレンス!セックスって共同作業っしょ。共同作業!アンタの快楽のためにオレが努力して、オレの快楽のためにアンタも努力する。――なのに、なんでこうも一方的にぶつんスか!ホークアイ中尉に言いつけますよ!ヒューズ中佐にだって!大佐がぶったって!」
ハボックは置いてきぼりを食らった子どものように、マスタングの関心を得ようと頑張った。ハボックは体に残った余韻をまた切り捨てられなかった。
「――お前は私のヨメなのか?ヨメのつもりか?あぁ?」
「誰が、この家、人が住めるレベルに保ってると思ってんスか!オレがアンタのヨメだって言ったって誰も否定しませんよ!」
「――――……」
マスタングはボールを蹴るように、容赦なくハボックを蹴っ跳ばした。
尻餅を付いたままのハボックは上手く避けられず、甘んじて蹴られて床に転がった。
「蹴んないで!大佐のバカ!バカバカ!湿気たマッチ!」
「――私を怒らせたな、ハボック。出て行け。今すぐここから出て行けっ!」
どうして、こんな夜更けに自分の部屋にわざわざ戻らなくちゃなんないんだ。意地悪だ。ヒドイ…。ここにはオレのパジャマだってパンツだって置いてあるのに。
じわっと涙で盛り上がった青い瞳を見て、マスタングは子どもの相手は疲れると言いたげに大きなため息をついてから、踵を返した。
ハボックはマスタングの仕草にこんなことで泣きそうな自分が恥ずかしくなって、慌てて涙が零れそうな目元をごしごしと擦った。
「――どこ行くんスか!」
「書斎だ。仕事が私を待っている。ホークアイのストレス軽減のために少しでも終わらせなくてはならない。お前はうるさいからもう帰れ。気分転換は終わりだ」
帰らないなら掃除をしておけ、そう言い捨ててマスタングは書斎に消えてしまった。
「えー…」
ハボックはそんなの面倒だなあと思いながら、心地よい余韻を反芻して目を閉じた。



しかし、ハボックの心安らかな眠りはすぐに奪われた。
結局、体中べたべたしすぎて辟易したマスタングはシャワーを使った。ハボックを罵りながら、さあ、仕事に戻ろうと今度こそ書斎に向かうと、玄関前の廊下に下半身をむき出しにして1人幸せそうに眠るハボックに目が向いてしまった。
近寄ってもぴすぴすと鼻を鳴らすだけで目を開ける気配もない…。

犬は犬小屋に。夜の散歩がてらに送って行こう。――この幸せな生きものが同じ屋根の下にいると思うだけで心静かに書類にサインできない、気がした。
「―――リード、あったかな…?」
ヒモを括りつけて引っ張って行かなくては。そう考えて上着を取りに行こうとすると、蹴っても踏みつけても起きないと思ったハボックが突然手を掴んだ。
さっきまでべそべそぐずぐずしてぐーすか眠っていたくせに、危機を察知する動物的な勘は相変わらず冴えている。
振り返れば、そこには起き上がって満面の笑みでリードと言うハボック。
どうやら私の手をリードと言いたいようだった。手をつないで散歩がしたいらしい。何が楽しくて大の男が2人でお手つないで歩かないといけないのか、そう思えばうんざりするが仕方がない。
――そう、好きにしたらいいさ。酔っ払いにこれ以上構っている時間などないのだ。
今は時間こそが貴重だった。私も我が身が可愛い。美しい私の副官のストレスを少しでも緩和させたいといつだって思っていることは確かなのだ。
あまり上手くいった試しはないが…。


08

確かに気持ちの良い夜だった。私の手を決して離そうとしない、でかい二足歩行のご機嫌に酔っ払った犬を引きずっていなければ。

ハボックはふらふらとマーキングをする場所を探すような足取りで、私の後ろを蛇行して歩いた。突然立ち止まったり、細い路地に入り込もうとしたり、ゆっくり歩いてみたり、走ってみたりと、満足に散歩もできない有様だった。
『うちの犬は躾がなっていなくて恥ずかしい限りです』
こんな風に飼い犬を詰っても、それでも愛してやまないと出来の悪い飼い犬に優しい目を向ける飼い主に、かつて羨望の気持ちを抱いたことがあったと、ふと思い出した。
――正に、頭の良くない犬を散歩させるというのはこんな風なのかもしれない。ムカつくことは非常に多いが、優しい気持ちになってしまうのもまた事実だった。

頭の上にぴんと立つ耳もなく、ふさふさな尻尾すらない二足歩行の犬だが、不毛な夜道の散歩すら楽しくさせた。


    +++


手をつないで夜道を散歩。
2度とないであろうことなのに、大佐はいつもよりほんの少し速く歩く。
大佐の後ろをいつものように歩いて、でも、いつもと違って手がつながれていて。
もっと、もっと、ゆっくり歩かなくちゃならない気分になった。
できるだけ長くこうしてようと、わざと立ち止まってみたり、ジグザグに歩いてみたりする。何となく大佐の前を歩いてみたくて走って前に行けば、それじゃあ本末転倒だと気がついて、取り戻すように、もっと、もっと、ゆっくり歩いた。
遠回りをしたくて路地に入り込もうとしても、大佐は全くオレの気持ちなんか分かっちゃくれなくて、足取りは淀みないまま。でも、オレは懲りずに遠回りできそうな路地を見つけては果敢に挑戦する。

――最後の路地にすら入れなくてついに全敗が決まって、悔しくて悲しくて。
もう、散歩の時間に終わりが近づいていた。
立ち止まって俯くと大佐がどうしたと言いたげに、オレのところまで来てオレの顔を覗き込んだ。たった、ほんの2、3歩でもオレのことを気にかけられたら、沈んだ気分は一気に浮上してしまう。近づいてくる顔ににこーっと笑顔がこぼれると、大佐が釣られるように目元を和らげた。
でも、大佐はすぐに歩き出してしまう。
そうなるともう、オレはついて行かざる得ないのだけど、楽しくて仕方なかった。
オレは大佐の困った顔を見たくて最後の最後までうろうろと歩いた。



楽しい楽しい散歩の時間…。


09

最後は両手で私の手を掴んでしゃがみ込み、歩くことを放棄した阿呆をずるずると引きずりながら歩くはめになった。日頃の運動不足を解消させてくれるような行為にただただ腹が立つ。この酔っ払った駄犬に良いように遊ばれている気がしてならなかった。
怒るな。酔っ払いに怒る程無味乾燥なことはないぞ。そう何度も私は繰り返した。
とにかく目的の場所は目の前なのだ。
私は、引っ張られることにすら楽しそうに笑い声を上げるハボックに、手を掴まれたまま一歩一歩階段を上った。階段や柵にどかんどかんとハボックの大きな体が当たっては音を立てていたが聞こえないふりをした。自分の肩や腕が脱臼しそうだったのだ。ハボックの体にどれほどの痣ができようがこの際、目をつぶる。うん。

たった12段の階段を上りきると清々しいほどの達成感に包まれ、額の汗を拭った。後はこの酔っ払いをこの部屋に放り込めば終わりだ。ああ、素晴らしい!
まだ執念深く私の手を掴んで足元にしゃがんでいるハボックに一発蹴りを入れると、やっと手が離れた。
「ほら、お家だぞ。鍵を開けろ」
ハボックは私を見上げて2、3回瞬きをしてからごしごしと目元を擦った。そして、のっそりと立ち上がり、ポケットから鍵を取り出す。鍵穴に鍵を差し込むのは酔っ払った手ではままならないようで、私は鍵を取り上げて、ドアを開けた。開ける所だった。――頭上から、大量の嘔吐物が降ってきたのは…。
怒るな。酔っ払いに怒る程無味乾燥なことはない。
その呪文はもはや効力を失いつつあった。込みあがる怒りのまま駄犬を見上げると、そいつはもうそれどころではない有様でまた吐く始末で、――今度は辛うじて避けることができたが、ますますどんどん投げやりな気分になっていた。

今日はもう眠れそうにないな。――そして、居眠りをしてまた中尉に冷ややかに睨まれるのか。いつものこととは言え、家で寝る時間よりも司令部で寝ている時間の方が多いかもしれないのは一体どういうことなのだろう。ホークアイ、さすがの私もそれはどうかとは思っているよ…。

ハボックが一通り吐き終えるのを待って、部屋に入った。



ハボックの部屋に行くことはしばしばあるが、実は中まで入ることはあまりなかった。が、入ったことがないわけではないので勝手に風呂場に向かう。今度は私が土気色をしたハボックの手を掴んで。
ベッドの上に畳まれて積み重なっている洗濯物や片付けられているキッチンと、それなりに小奇麗な部屋に言い知れぬ憤りを感じた。女の影が一つも感じられない無造作な部屋で、それらはハボック自身が片付けていることを意味している。――自分にはないこの勤勉さが意味もなく憎かった…。

ハボックは急に回ってきた酔いにテンションを劇的に急降下させた。
酔っ払いの面倒を見るなんて何年ぶりのことだろうか。

バスタブに湯を張っている内に、ハボックは自力では立っていられなくなって壁に寄りかかりながら座り込んだ。意識が朦朧としていて、呼びかけてもあーとかうーとかしか言わない。太い二の腕を掴んでバスルームに転がしても文句一つ言わなかった。
私はハボックの吐瀉でダメになった上着とシャツを脱ぎ捨て、まず自分を丹念に洗った。それから、床に懐いてまだ意識が戻らないハボックの背後に立って、上半身を起こし、シャワーヘッドを外したホースを口の中に突っ込んで水を飲ませた。気管に水が入ったら死亡だなと思いながら。がほっとハボックがむせてから、口の中からホースを取り出し、腹を背後から押して強引に吐かせる。これを数回繰り返してから、水で張り付いたTシャツを力任せに引き剥がし、ジーンズも剥く。しかし、ジーンズは濡れていて非常に脱がせにくかった。ハボックを仰向けにしてジッパーを下ろし、うつ伏せにしてジーンズを尻まで剥いだ。パンツの跡が白く日焼けせずに残っていて可笑しかった。

しかし、まあ、変な日焼けの跡は付いているが、相変わらず、いい体をしてる。筋肉の付き方や、骨格の均整が取れていることが最も大きい勝因だろう。でかい奴にありがちな愚鈍さがないから、実際の身長より小さく印象に残る。もちろん、猫背であることも外せないが。俊敏でリズム感のよい体は軍人でなくとも誰もが理想とするものだろう…。
軍人にしては貧弱な白い自分の体が目に入ると、途端に、転がったままの日に焼けた体に腹立たしさがまた込みあがってきて、奴の尻に乱暴に足をかけて力を込めてジーンズから足を引き抜いた。
この扱いが不満だとばかりにくぐもった声が下から聞こえてきた。ふん。――最大にして唯一の取り柄をますます磨くためにも明日からの仕事を1.5倍増しにしてやろう。
裸に剥いた駄犬のこびりついている吐瀉物をシャワーの水量を最大に上げて落としてから、まだ意識が戻らない奴を転がし引きずり上げてバスタブに放り込んだ。



私がもう一度しっかり自分を洗いバスタブに入ろうとしたら、奴がバスタブの底にに沈んでいた…。
――まだ、死んでもらっては困る。
それに、ここで溺死したら真っ先に私が疑われるだろうが。
バスタブの底から大きな体を引っ張り上げバスタブの淵に軽い頭を乗せ、3発頬を叩いたらあうと情けない声が漏れた。全く、人騒がせな奴…。


10

仕事を中断してまで、犬と一緒に風呂に入っている。
私は一体何をしたいのだろう…。

ハボックの部屋の風呂は大きかったがさすがに男2人はいれば狭い。しかし、ほっとくとハボックはずるずると湯に沈んでしまうから、私は仕方なく背後に回って硬い体を抱きかかえた。そして、あごに手をかけて軽い頭を肩に乗せる。
乱暴に頭を左右に揺らしてもカラカラと音はしなくて、少し安堵した。確かに脳みそは詰まっていた。

湯と人肌は見る見るうちに荒んだ私の気持ちすら穏やかにしていった。
「ああ、こんな暢気なことをしている場合ではなかったような気が……」
一仕事終えた気分で風呂に入って私は何をしているのだろうか。
このまま眠ってしまったらどうなるだろう。やはりホークアイは怒るだろうか…。いや、確実に怒るだろう。うん。彼女でなくとも怒るな。飼い犬とのスキンシップを優先して、仕事を滞らせたら。私なら自分の上司がそんな公私混同をする無能な奴だったら、いかなる手段をもってしても失脚させるだろう…。

梳かしているのか不明なハボックの金髪を撫で付ければ、頭が傾いて寝息が首元を擽った。くすぐったくて首を竦めたら、子どもがむずかるように体を捻ってぎゅっと抱きついてきて、―――たいしゃ…、と舌足らずに小さく呟いた…。
「……………う、……………」
思わず動揺で体を揺るがせると、私の心を移したように湯が激しく波打った。
少々奔放的に体を合わせたり、夜道を手を繋いで散歩したり、ゲロを頭から掛けられたり、酔っ払いの介抱をして一緒に風呂に入ったり…。それでも、こんな一言でこいつにときめいてしまうとは。
ハボックは私を抱きしめて、もうもごもごと言葉にならない音を発しているだけだった。それでもまだ意識は戻らない。
私は完膚なきまでに完敗した気分だった。―――しかし、不思議なことにそんなに嫌な気分ではない。それどころかむしろ体の底から笑い出したい衝動に駆られた。そして、それに逆らう気概などもう湯に溶け出してなくなっていた私はそれに身を任せて、笑った。

人に負けてこんなに清々しい気分でいる自分が少しだけ信じられない…。
もし私が変わったというのなら、その原因はハボックしか考えられなかった。いままで、仕事だけはちゃんとしてきたのに。
ハボック、お前が悪い。お前のせいだ。そうだろう?
ホークアイに失脚させられたら、お前に私を養わせるからな!はははははっ!





私の笑い声に意識を取り戻したハボックは、大きな悲鳴を上げて立ち上がり、どうしてアンタがここにいるんスかと言った。その一々を説明することが面倒だった私はお前のせいだと告げて、目を閉じた。
「今夜のこれはお前のせいなのだから、明日の仕事が滞る責任はお前にある。ホークアイにはお前が怒られろ。分かったな」
ええーと嫌そうな声が上がった。ハボックが嫌がれば嫌がるほど溜飲が下がっていった。また笑いがこぼれた。きっとこれも共同作業なんだろう。お前も一緒に怒られたまえ!

ああ、もう…。そんな言葉を漏らしながらも湯船から私を抱き上げる。そのハボックの手つきが割れ物を扱うように恭しくてもっと可笑しくなった。
ああ、本当に何もかも完敗だ。もう、お前の好きにしてくれ。
全ての力を抜いて、ハボックの腕に身を任せる。

結局私は私が思っている以上に、お前にメロメロなのかもしれない。それでも良いかと思えるのは、ハボックの酒気が移ってしまったからだ。きっと。


END
初出:2006/03/15メモ〜2006/08/24・2006/09/02改