賭けに勝った。ちょっとした好奇心だったのだ。
「――――――――んじゃ、オレを口説き落とすなら何て言います?」
目の前の人がすっごく嫌そうな顔をしたので、それだけでオレは溜飲を下げた。
たぶんそれで満足しとくべきだったのだと思う。
世界は色を有してはいなかった。――――いや、いつからか、色を失っていた。
空も、大地も黒色、もしくは灰色。炎すら白かった。
大地に横たわり、空を見上げる。
私は、青い空が見たかった。
この厚い曇天の向こうに青い空があることに懐疑的な気持ちになっていたんだ。
戦局は、どんどん泥沼になっていき、見知った顔や声を交わした者たちが日に日に減っていく。
お前の青い瞳を見上げると、ときどき、ふと、その頃を思い出す。
大佐は、ふふふと吐息だけで笑う。
「――――青い目の、背の高いヤツなら誰だっていいんスか」
突然の内乱期の話に動揺を誘われ、そんな風に、合いの手を入れた。
そうかもな。残酷な一言。
そして、大佐には珍しい自嘲的な笑みを浮かべたまま、その視線を手元のグラスにじっと向けている。
でも、きっと、お前のその目が失われても、私はお前の背後に青い空を見るんだろうなぁ。
青い目に、青い空を起因させるような者はそう居ないんだよ、ハボック。
お前のその性質があるから、その青い目に、青い空を、見る‥‥‥。
今度、大きな戦争が起こったときはお前が隣にいるのだろうと思うと、少し愉快になる。
いつでも、好きなときに、好きなだけ、私はそれを見るのだ。
――――今は、暑い雲が覆い、青い空が見えないだけだと知る。
そう思えばどこにでも向かうことができる。光の届かないような場所にすら。
お前のことが好きだよ。
なかなかいい言い草だろう?
大佐は、もう、いつもの人を喰った笑みを浮かべてた。
グラスの中の氷が均衡を崩し、ひどく大きな音を立てた。
そして、ようやくオレは自分がひどく緊張していることに気がついた。