夢オチハボロイ結婚物語編
 + + +

ハボックと結婚する夢をみた。



夢の中で、私たちにはすでに子供(!)がいた。ハボック似の少年と私似の少女の2人だ。私とハボックは、子供たちに何と呼ばせるかで言い争いをしている‥‥。

「名前で呼ばせるなんて、ダメっスよ!」
ハボックは、鼻息荒く言った。
「――はあ?」
「子供たちにとって親はオレたちだけなんスから。パパ、ママって呼べる唯一の人間なんスよ。そう呼ばせてあげるべきでしょ!」
「パパ、ママ?」
その言葉の意味を知らない訳ではなかったが、もしかして、別の意味があったのかも知れないと、私は思った。
「パパ、ママ」
ハボックは真面目な顔で、自分を指差して「パパ」と言い、私を指差して「ママ」と言ってみせた。
「ハボック‥‥‥」
離婚決定だ。何故、私はこんな阿呆と結婚しているのか。私はこんなともあろうかと結婚届と共に用意していた、すでに捺印済みの離婚届に手を伸ばした。
「――ちょ、ちょっと!大佐!アイツらだって、アンタの方を『ママ』って呼びたいはずですって!それ以外の他意は、オレにはないっスよ!」
私が離婚届を手に取るよりも、ハボックの方が一瞬速かった。

「――それは、聞いてみなくてはわかるまい?」
しばらくの睨み合いの末、埒が明かなくなって、結局、私が譲歩した。



子供たちを呼べば、待ってましたとばかりに、仲良く手をつないでリビングに、小走りに入ってきて、私の両隣りに座った。
「今日は、大切な家族会議だ。よく考えて発言をするように。――ハボックも」
全員が、神妙に頷いた。私以外、みんな、ちょっと頭が弱い感じがある。その代わり、身体能力が高いが。
「『ママ』とは、どんな存在のことを言う?」
「ごはんを作ってくれる人!」
「幼稚園に一緒に行ってくれる人!」
子供たちは、少し考えてから大きな声で言った。
「では、『パパ』とは?」
「えらい人!」
「お仕事がいっぱいな人!」
「では、私とハボックでは、どっちが『パパ』で、どっちが『ママ』だ?」
子供たちは、私とハボックを何回も何回も見てから、じっと、私の顔を見た。
「ママ」と「パパ」の役割を認識していて、何を悩む必要があるっ!
「――もし、私を『ママ』と呼んだら、私は振り返らない」

「ロイがパパだっ!」
「ハボがママー!」
素直な子供たちはそう言って、私に飛びついてきた。
もちろん、いい子には抱擁をあげるとも!ぎゅっと抱きしめたら、2人ともうれしそうに、パパーと言った。

向かいで、ハボックが汚ねえと、ぼそっと呟いた。



 + + +

大佐と結婚する夢をみた。



夢の中で、オレたちには、なんと、すでに子供(!)がいた。オレ似のガキと大佐似の黒髪の美少女の2人だ!だが、夢の中で、何故かオレが「ママ」と呼ばれていた。――オレが、コイツらを産んだなんて考えられない。でも、夢の中のことだから、オレにはどうすることもできずにいた。オレとガキ共は、カフェで大佐が来るのを待っていた。

「オイ、大佐が来る前に好きなもの頼んでていいぞ?」
「待ってる」
「待ってる」
大佐大好きっ子なガキ共は、首を長くして、大佐がやってくるのを今か今かと待っていた。オレの遺伝子が半分混ざっているこの2人は、哀れなほど大佐好きだった。
ちょうど待ち合わせの時間になって、大佐を乗せた車がカフェの前に停まって、大佐が降りてくる。すかさず、ガキ共が走り寄って行った。

両脇をガキ共に固められて大佐が席に座ると、すかさずカフェの女の子がメニューを持ってきた。ガキ共はもう待ちきれず、声を揃えて、プリン、プリンと繰り返した。
「メニュー、見ないのか?」
大佐にそう言われてもガキ共は、プリン、プリンと言うだけである。こんなだと、まるで、オレが日頃いいものを食わせてないかのようだ。
ガキ共の阿呆な様に、カフェの女の子が、顔を綻ばせた。
「ええっと、オレはコーヒーと、オレンジジュースを2つ」
大佐はメニューを閉じて、女の子に返しながら言った。
「私は、プリンアラモードにしよう。後、紅茶を」
――なんて大人気ない。ガキがプリンを頼んで、あえて、プリンアラモードを頼むとは。
思わず、眉を顰めたオレに、大佐がにこっりと笑みを浮かべた。

すぐに、注文したものがテーブルに並べられた。
まず、飲み物。次いで、プリン。最後に、プリンアラモード。
2人が、自分の目の前に置かれただのプリンに喜んでいると、大佐の前に、いろんな果物がのり生クリームでデコレーションされた豪華なプリンが置かれた。
ガキ共が驚きに言葉を失い、目を見開いて、何回も自分のただのプリンと大佐の前の豪華なプリンを見比べている。
「どうした?食べないのか?」
あくまでも、大佐はにこやかだった。
ガキ共はその笑顔を前にして、ただスプーンに手を伸ばすことしかできなかった。
涙を浮かべながらプリンを食べる様を見て、大佐は実に楽しそうにプリンアラモードを食べ始める。ガキ共は、きっと、今度カフェに来たら、迷わずプリンアラモードを頼むことになるんだろう。



その次の機会は、比較的早く訪れた。ガキ共は今度は迷わずに、プリンアラモードと、注文をした。大佐が、メニュー、見ないのか?と聞いても、ガキ共は、プリンアラモードとしか言わない。そしたら、大佐はイチゴパフェを注文した。
プリンアラモードという名前を覚えるだけでいっぱいいっぱいだった、オレに似て頭の悪いガキたちがあまりに哀れだった。

もしかしたら、大佐は、ガキ共にメニューを見ることを教えようとしていたのかもしれない。――単に、からかって遊んでいるように見えても‥‥。

オレの向かいで、大佐が幸せそうにイチゴパフェを頬張っていた。



 + + +

大佐と結婚する夢をみた。



夢の中で、オレたちには、なんと、すでに子供(!)がいた。オレ似のガキと大佐似の黒髪の美少女の2人だ。だが、夢の中で、何故かオレが「ママ」と呼ばれていた。――オレが、コイツらを産んだなんて考えられない。でも、夢の中のことだから、オレにはどうすることもできない。オレはキッチンでガキ共から授業参観のお知らせのプリントを渡された。

「この日なら、大佐も行けると思うぞ?」
会議のない日にある授業参観だった。いつもこの手の学校の行事にでれない大佐に、がっかりした顔をするガキ共だから飛び上がって喜ぶと思ったのに、何故か2人は項垂れてしまった。
「来て欲しくないのか?」
ちょっと早いが、反抗期なのかもしれないと思ったが、ガキ共は必死になって首を横に振る。その内、頭を振りすぎてふらふらになったガキ共が、目に涙をためて、ぽつりと言った。
「――ママ‥、授業が‥‥」
「――体育と、―――算数‥‥」
オレに似すぎた2人は、とっても運動神経がよかったが、頭がちょっと悪かった。
大佐の遺伝子を半分持ってんのに、何でこんなに頭が悪いんだとか、本当は、大佐の遺伝子持ってないんだろうとか、同級生に影口を叩かれていることは知っていた。
影口を言われた2人は、相手が誰であろうと果敢にも戦い、堂々と勝利をもぎ取ってくるが、学校の備品がよく壊れた。その度に、オレが学校から呼び出されていた。
きっと、大佐が授業参観に行ったら、この手の影口は減るはずだが、苦手な算数の授業を見られたくないのだろう。
「算数の授業、何するんだ?」
「――九九の暗唱‥‥‥」
九九の暗唱に、大きなプレッシャーを感じるオレの遺伝子。すまない。心から、そう思った。
「まだ、日があるから、練習しような?」
2人は神妙な顔をして頷いた。

2人は猛特訓の結果、何とか、九九の暗唱を成し遂げた。そう、やればできるのだ。後は、授業参観の日を待つのみとなったが、不運にも、当日の朝になって、大佐に突発的な会議が入ってしまった。大佐は、会議を招集した将軍を口汚く罵って、出勤していった。
ガキ共は、自分たちが活躍できる今度の運動会に来てくれればいいからと言って、大佐を見送った。がっかりしてても、顔に出さないガキ共の頭をちょっと乱暴に撫でた。



大佐は来ないと油断していたんだと思う。その人は、突然、算数の授業の最中にひょっこり現れた。何でも、会議をちょっと抜けてきたそうだ。大佐のこういう突飛な行動にオレは慣れていたが、ガキ共は違った。教室に大佐が現われると、すぐに保護者たちが気付き、歓声を上げた。結婚しても、子持ちになっても、大佐の人気は顕在だった。教師も、にこやかに大佐に挨拶をして、では、せっかくだからと言って、ウチのガキ共を立たせて、九九の暗唱をして見せるように言った。当然、ウチのガキ共は心の準備がなかったから、パニック状態だ。――あんなに練習したのに、結果は惨敗だった。

次の授業は、ガキ共の得意な体育だった。是非とも、名誉挽回して欲しいところだったが、先ほどの失敗が尾を引いていたようで、何回も転倒してしまい、どこもいいところを大佐に見せられずに終わってしまった。今にも泣きべそをかきそうなガキ共を遠くに見て、大佐は笑いを堪えながら会議に戻っていった。正味30分足らずのことだった。



家に帰ってきた、2人はずっと無言でリビングのソファに丸くなって落ち込んでいた。こういうところは大佐に似ている。

大佐が帰ってきたが、2人はいつものように玄関に走っていかなかった。廊下の端から、じっと大佐を窺っている。その様子に気付いた大佐の明るい笑い声が聞こえた。その笑い声に、授業参観のことを怒っても呆れてもいないことに安心したらしい、ガキ共が走り出して大佐にしがみ付いた。
「九九の暗唱できるよ!」
「私も!」
ガキ共は、リビングでつっかえながらも何とか九九を暗唱して見せた。

大佐はガキ共が眠ってしまってから、オレに言った。
――お前も、九九に手こずった口だろう、と。なんとも楽しげに‥‥。



 + + +

夢から覚めて。



ここが自分の狭くて硬いベッドの上であることに気が付いた。ほっとしていいのか、がっかりしていいのか正直わからなかった。まだ、朝は明け切らない。オレは、まだ、ベッドから出れずにいた‥‥。

子供ね。子供‥‥。名前、考えないと。オレ似のガキはまだしも、大佐似の女の子‥‥。阿呆だったな‥‥。せっかく、大佐に似てかわいいのに。――あー、大佐に似てかわいいってなんなんだろ?大佐って、かわいいのか?―――それは、置いとけ。深く考えるな。名前。女の子の名前だ。どうせなら、大佐の名前と、オレの名前を入れてあげたい‥‥。

―――――ジョイかな。
あ、オレ、天才!オレのJと大佐のOYで、JOYか。うん。いい名前だ。

あー、オレのこと、『ママ』って呼んでたよな‥‥。初潮とか来たとき、やっぱりオレが教えるのかな。――いや、さすがにマズイだろ。それは大佐に任せよう‥‥。

ジョイ、彼氏とか、家に連れて来たりすんのかな。――やだなあ。そんなのすっごくやだ。
結婚なんて、もう、絶対ダメだ。―――絶っ対、ダメっだっ!!

まだ、朝は明けない‥‥。



 + + +

夢から覚めて。



まだ、朝とは程遠い時間帯だったから、ベッドから出るようなマネはしない。この広い快適なベッドを、悠々と独り占めできるとは素晴らしいことである。

子供がいた。明らかに、ハボックに似た子供たち。ハボックの遺伝子が、悉く優性だったのだろう。私の悪癖を感じさせるものはなかった。――女の子の容姿に表れただけそうだった。しかし、女の子だ。成長すると同時に、私の面影はなくなって行くだろう。

根拠は定かではないが、錬金術師は遺伝的要素が強い。家系に錬金術師がいなければ、唐突に錬金術師が生まれる確立は限りなくゼロに近かった。私は自分が有しているこの能力を後世に残したいとは、全く、思わない。そう考える私が、自分の子供と楽しそうに暮らしていた。劣性遺伝子の塊だろう私と、優性遺伝子そのもののようなハボック‥‥。
――でも、これは夢に過ぎない。そう、夢に過ぎない。

そう言えば、子供たちには名前がなかった気がする。ふふふ。名前は決まってる。
―――ジャックとジャクリーンだ。



 + + +

ハボックと結婚する夢を見た。いや、正確さを記すれば、新婚生活を送る夢というべきだろう……



夢の中で、私たちにはすでに子ども(!)がいた。ハボック似の少年と私似の少女の二人。その二人はハボックのことを「ママ」と、私のことを「パパ」と呼んだ。――深く考えることはしない。これは所詮夢の中のことに過ぎないのだから…。市内巡回中、子どもたちと一緒にいるハボックを見かけた。奴はただいま育児休業中らしい。

普段より随分とゆっくりと歩くハボックの足元を、子犬のような子ども二人がじゃれつくように小走りで付いていく。それぞれのその小さな手には油染みの浮いた紙袋が大切そうに握られていた。恐らく本日のおやつとして、屋台で買い与えられたものなのだろう。
「こら、足の間を潜るな。転んじまうぞ」
「だいじょうぶ!」
「だいじょうぶ!」
子どもたちは元気に言って、手の中のおやつを胸に抱えながらわざとハボックの長い足の間を潜って見せた。
「こら!」
子どもたちのきゃーっと上がった甲高い笑い声に、ハボックの声も笑いを含んで注意を促す。三人は通りを行くものたちの微笑ましい眼差しを集めていた。子どもたちを捕まえようと伸ばされる腕から逃げ惑う子どもたち。ぴょんぴょんと夢中で逃げ回る。これがなかなか素早く、ハボックにしてなかなか間単には捕まえられない。しかし、ハボックの方が一枚も二枚も上手であることは自明だった。子どもたちがきゅっと首根っこを捕まれるのは時間の問題だろう。それでも子どもたちは頑張る。
少々頑張りすぎるほど。あっ、と思う間もなく、二人は歩道を飛び出してしまった。車が行き交う車道へと。しかし、大きな手がさくっと二人を掴み上げた。
「こら、危ないだろ!」
二人の鼻先を、スピードを落とさない軍公用車が通り過ぎて行く。
ハボックの視線が鋭く、その公用車を睨み付けていた。

「…………」
「ぐす」
子どもたちは脅えた様相など微塵も見せない。目の前を通り過ぎていった車など見てもいなかった。ハボックに掴まれたことすら気にせず、ただ足元に散らばったドーナツを見つめていた。子どもたちの手に大切に大切に握られていた紙袋はいつしか破れ、その中身が零れ落ちてしまった。

無言で石畳の上に散らばったドーナツを集める二人。時折、目元をごしごしと拭いながら。これで今日のおやつはなくなってしまったのだ。二人は汚れてしまったいくつものドーナツを全て拾い上げ、胸に抱えてハボックを見上げる。これ、食べられるかな。そう言いたげに。その視線にハボックが大きく頷いた。
「大丈夫だ。あの人は自分の好物が道路に落ちたぐらいで捨てるような人じゃない。美味しく食べてくれるだろう」
「ん!」
その言葉に子どもたちが光り輝くような満面の笑顔を浮かべた。



つまり、それは子どもたちのおやつではなくて、私へのお土産というわけか。
容易に想像できた。家に帰って、子どもたちに差し出された、その道に落ちたドーナツを笑顔で食べることになる自分が。
「――ハボックめ…」
奴に子育てを任せ切りにしていてはならないことに、私は漸く気が付いたのだ。


 + + +

このネタも大好き!