―――――下手糞、それはちょっと聞き捨てならない言葉だった。
「オ、オレは努力してます。―――コレでも努力してんですっ!!」
ハボックは、シーツを腰に巻きつけつつ、大きなベットの上に立ち上がった。
スプリングがきしみ、その大きな体が僅かに傾いた。
怒り心頭といった態でマスタングを見下ろせば、その顔に明らかな面倒臭さ気な色を見て更に怒りが沸く。
相手は自分の怒りを煽るのも収めるもの上手いが、ここは引いてはいけないところだと思った。
「努力?―――――っは!だからなんだ?お前は私から努力賞でも欲しいと言うのか?」
状況のバカバカしさに付いていけないと言わんばかりにベットに寝そべったまま肘を立てている。くだらない。そう、その態度は全身で言っていた。
「共同作業だって言ってるんスよっ!!オレ一人が頑張ったって、限界があるってもんでしょ!ちょっとは協力してくれたっていいじゃないっスか!?」
「―――――それはなんだ?お前、私が協力的でないと言っているのか?はっ!もう少し、考えて、ものを言え」
「‥‥‥‥‥っ!!」
マスタングの物言いにハボックの青い瞳が思わず揺らいだ。
いっつも頑張って、いっつも努力して、いっつも期待して、いっつも我慢してんのは自分だ。
たまぁ〜にある、こんな機会をいっつも夢想して、アレしようとか、コレを試して見ようとか考えているのは自分だ。
どれだけ自分がこの時を待っていたかなんてこの人にはわかりようがないし、そもそもわかろうという気持ちすら感じたことはない。
悲しい。
先ほどまで燃え上がっていた怒りは消え去り、今は打って変わったように悲しさで満ちていた。
ベットの上で仁王立ちしていることがひどく滑稽に思えてきて、いつものように猫背気味になってベットを降りる。スプリング悪くしちゃったかなとか考える自分が余計に哀れに思えた。
ここで、もう、アンタには付き合いきれないとか捨てゼリフを残して出て行ければいいのに。
出て行けない、未練たらたらなオレは、こんな情けないヤツに大佐がほだされてくれるのを待つことしかできなくて、肩を落としたまま、大佐に背を向けてベットの端に座り込んだ。
過ぎていく時間の長さに耐え切れなかったのは、オレの涙腺だった。
グスとハボックが鼻を啜る。
お前、それは反則だろう?何て大人気ない。お前はいったい何歳だ?
マスタングは心中で口汚く罵ったが、口から出たのは舌打ちだけだった。
「―――――ちょっと、アンタ。言っときますけど、オレ、泣いてませんからね」
すかさず、マスタングの心の中を読んだようにハボックから非難の声が上がった。
こんなことで、泣くなっ!バカ、アホ、マヌケっ!トンマっ!!!
しかも、お前の、その、努力とは一体なんだ?
エロ本に載っていることを私にして一体何がどう努力と言うんだッ!!
女性に対する奉仕の心得をこの私に実践して、一体、何が楽しいッ!!!
三流AV如くに私にアンアン鳴けと言っているのかっ!?
何が協力だ!だから、お前は、バカだというんだッ!!
「――――――――――あのぅ、オレ、そんなに下手糞なんスか?」
男と女の体の構造の差から勉強し直して来いっ!!馬鹿者っ!!!
しかし、マスタングは罵りたくとも罵れない自分を知っていた。
そんな阿呆に懲りずに足を開いているのは自分の意思なのだから。
下手糞でもコイツがいいなんて、恥ずかしくて考えたくもないが、紛れもない事実ではある。
負けが込んでいるような気がして、悔しくて、下手糞と漏らしてみても、その言葉の裏にあるものを気付かれたくなくて、それ以上が続かない。
「大佐?」
恐々と振り返り、様子を伺うその目元が少し濡れていて、不本意ながらも男の腰に手を伸ばす。これに何でこうも弱いのだろうと思いつつ、機嫌を取るように、マスタングは男の股間に顔を埋めた。