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菜の花を見に行こう +
菜の花の黄色を見るときみを思い出す。
と言ったらきみは笑って、上着が黄色っぽいもんな、と言った。
そうじゃないんだ。
でも、菜の花の黄色ときみとのつながりを論理的に説明できなくて、僕は言葉に詰まってしまった。
そんな僕を見て、きみは唐突に言った。菜の花を見に行きたいな、と。
2歩先をきみが歩いていく。
満開の菜の花はずいぶんと背丈を伸ばしていて、きみの背中までを隠していた。
こっちの菜の花って大きいんだな、ときみが言った。
俺のいた世界だと、もうちょっと小さかったよ。
そうかい、と僕は答えた。リィンバウムの菜の花がみんなこうなのか、それともここだけなのか、僕は知らない。
少しつんでいこうか、ときみがまた言った。菜の花って食べられるんだよ。リプレに持ってったら喜ぶかもしれない、と。
そうかい、と僕はまた答えた。菜の花が食べられるということは知っていたけれど、食べたことはない。少し食べてみたい気がした。
リプレが教えてくれたんだけど、ときみは話を変える。ここって、リプレが小さいころはこんな狭い菜の花畑だったんだって。それが何年もかけて、こんな大きな菜の花畑に広がったんだってさ。
そうなのか、と僕は受け、菜の花を見渡した。右へ、左へ、前へ、後ろへ、僕らを取り囲む黄と緑の花の色。こんな狭い、ときみが手で作ってみせた菜の花の数株が、こんなに広くなるものなのか。
春だなあ、ときみが言って、僕は唐突に、ああ、春だと思った。あの日きみと出会った春だ。
足を止めると暖かな風が通り抜けていった。僕はひとり目を閉じて、今があの日に戻って、これからきみと出会い、きみの仲間たちと出会い、あの日々を過ごすんだったらと想像した。
それは不思議に胸が躍るような、懐かしさがこみあげるような感覚で、僕はなんとなく胸いっぱいに春の空気を吸い込んだ。僕はあの日々に多くの罪を犯し、父上と決別し、出会ったばかりの異母兄を失ったけれど、それを思うたび胸の奥に刺すような痛みを覚えたけれど、今はそれを感じなかった。ああ、ここに鋭いとげの刺さっていた痕がある――――。そうは思うけれど、もう痛くはなかった。
キール、と近くで声がした。目を開けるときみがいて、どうかした?と首をかしげていた。
やっぱり、菜の花を見るときみを思い出すよ。僕は言った。きみはますます首をかしげて、
俺はさ、
と言った。
菜の花を見ると、なんだかメイトルパを思い出すよ、と。
メイトルパのサモナイト石は緑だからな、と僕が言って、きみはそうかもなと言った。
俺って、メイトルパっぽいのかな?
そうかもしれないな。きみの一番のお気に入りはメイトルパのゲルニカなんだろう?
うん、戦闘中に召喚するなら、だけどさ。キールはよくポワソ呼んでるよな。
そうかな? プラーマのほうが多いんじゃないか?
そんな他愛ない話をする僕らを、一面の菜の花が囲んでいる。
08.03.01