+ アルバな午後・聖王都にて +
「で、何でわざわざ蒼の派閥の本部まで来たんだ?」
長い廊下を先導してくれながら、マグナがにこにこきいてきた。
「召喚術を鍛えてもらいたいんだ。おいら、剣は結構修行したけど、召喚術は全然だから……」
「へえ、えらいなあ、アルバ」
そこでちょっと小首を傾げ、
「でもなんでわざわざネスなんだ? サイジェントの誓約者じゃダメなのか?」
「おいら機属性だからさ。ロレイラルの召喚術といえば融機人のネスティさんだと思って」
「え? アルバ機属性だったのか」
びっくりしたようにマグナは振り返った。
「うん、おいらもなんで自分が機属性なのかわからないんだ。てっきり獣属性だとばっかり」
「あれ? 俺は鬼属性だと思ってたよ」
「鬼属性? おいらシルターンぽくないような気がするけど、なんで?」
「だって、アヤもアカネも鬼属性じゃないか」
「……アメルは霊属性だよ」
「ああ、そういえばそうか。そっかそっか、アは関係ないか」
そっかそっかと弾んだ声で言うマグナに、なんとなく不安が募ってきた。
「でもえらいよな。自分から自由騎士団に入って修行するなんてさ。大変だろう?」
「騎士になるのは小さい頃からの夢だったから。そりゃ、楽しいことばっかりじゃないけど、それも全部修行だって思えるから嬉しいよ」
えらいなあ、とマグナはもういっぺん言った。
「イオスなんか気が短いから大変そうだけどな。もしいじめられたら、すぐに俺たちに言ってくれよ」
「いじめられるなんて、そんな。イオス副隊長にはお世話になってばっかりだよ」
慌てて言ったけど、マグナは「まあまあ」と言う。
「ふっふっふ。俺、いろいろ握ってるからさ。一発でイオスを黙らせるようなネタも隠し持ってるんだ。たとえば『忘れたとは言わせないぞルヴァ」
一瞬、光が走ったように見えた。同時にざしゅっと音がした。え、とおいらが立ちすくんだ瞬間、マグナがばったり倒れ伏した。
「マグナ? ……マグナ! どうしたんだ、しっかり!」
「……きみは馬鹿か? 相手は先制持ちだぞ。6歩移動のダブルムーブのバックアタックで瞬殺されるに決まってるだろう」
今のは火事場のバカ力が入った雷光一閃だな、と言いながらネスティさんが現れた。右手に本を抱えたまま悠々と近づいてきて、マグナまであと2歩に近づいたところでようやくリプシーハピーを呼んだ。
「ネスティさん、今のって一体……」
「ああ、きみには関係ない気にするな。それで、僕に何か用だって?」
「うん、実は……」
「自分がどうして機属性なのかわからないから聞きに来たんだってさ」
応えたのはおいらじゃなくて、痛そうに身を起こしたマグナだった。まだ星がちかちかしてるのを、自分でプラーマを呼んで治している。ネスティさんは本で自分の肩を叩きながら、
「おかしな用事だな。別に機属性でもおかしくないと思うが」
いやそうじゃなくてというより先に、
「そうかな、俺は獣属性のほうが似合ってると思う。だって、ペンダントが緑色なんだぜ?」
「きみは馬鹿か? そんな理屈がまかり通るなら、エスガルドは鬼属性、レオルドは霊属性になるだろうが」
「ああ、言われてみればそうか」
うんうんと2人で納得する。
「そういうことだから、きみは機属性でもおかしいことはない。そんなことは気にしないことだ」
「いや、だから……」
ネスティさんはみなまで言うなというかんじで、おいらに向け軽く手のひらを上げた。
「融機人だから言うわけじゃないが、機属性召喚術は、低コスト高ダメージ、しかも最近じゃ回復までお手の物だ。4つの世界の中で最も優れているのがロレイラルの召喚術だと僕は思う。胸を張って使ってほしい」
「あの……おいら召喚ランク低いから、高ダメージも回復もできないよ」
そんなつもりじゃなかったのに、一瞬いやな沈黙が降りてしまった。ネスティさんは咳払いして、
「そ、そうか。いや、君は直接攻撃ユニットだから当然だ。だから召喚術よりも……」
「いい考えがある!」
マグナがいきなり叫んだ。びっくりしたおいらとネスティさんの視線を浴びつつ、
「ネスと誓約するんだ。アルバがネスをユニット召喚して、ネスが召喚術を撃って戦う。こうすれば召喚ランクなんて……」
「きみは馬鹿か! なんで僕がユニット召喚されなきゃならないんだ!」
怒鳴りつけられて、マグナはぽんと手を打った。
「あ、そうか。ネスは俺の護衛獣になるから、他の人とは誓約できないか」
「……ゼルガノン」
ネスティさんの低い声。おいらにできたことって言えば、その場にクレーターが三つくらいできるのを口を開けて見てることくらいだった。
「……トリスの護衛獣になるつもりはあっても、きみの護衛獣になるつもりはさらさらない!」
クレーターに向けてきっぱり言い放つと、ネスティさんはこちらに向き直った。
「なんだかバタバタしてしまって申し訳ない。ギブソン先輩たちの家に行こう。先輩たちも、きみが来てくれたと知ったら喜ぶだろうからね。サイジェントの話でもしてあげてくれ。僕も、自由騎士団の話が聞ければありがたい」
「いや……あの……。……うん」
2人に歓迎され、とっときの得意料理を出してもらい、おいら一体何しに来たんだっけと思いながら翌日聖王都を後にした。
07.2.9
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