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その2 トウヤの場合 +
「初めまして、トウヤです」
初めて会う誓約者は、漆黒の髪で背の高い、落ち着いた人だった。あたしと変わらないくらいの年かも知れないけれど、すごく大人びて見える。
それでいてとても穏やかそうな顔は、カイナから聞いた「鬼神をも(横に)一刀両断する剣士」という言葉にはまるで似合わない。
「カイナから話は聞いたよ。その木まで、連れて行ってもらえないかな」
そしてあたしとトウヤは、大樹へと向かった。
大樹の幹に額をつけたトウヤは、目を閉じたまま深く響く声で言った。
「ああ、ネスティさんがいるね。この中で眠っている……」
「ネスが生きてるの?!」
「ああ」
ネスが生きてる!
信じられないくらい嬉しかった。もう少しで泣き出しそうになるのを必死に抑え、
「お願い、ネスを助けて! どうやったらネスを取り戻せるの?!」
叫ぶように尋ねると、トウヤは幹から額を離して申し訳なさそうな顔をした。
「すまないけれど、それは僕にも……」
「…………そう……」
落胆を顔に出してしまったらしい。トウヤはちょっと困ったような、いたわるような、とても優しい顔でほほえんだ。
「だけど、必ず目覚めるよ。いつか必ずね」
「…………うん」
あたしは深くうなずく。
そう、ネスが生きているってわかったんだもの。それでもう充分。
いつか目覚めるとわかっているのなら、あたしはいつまでだって待てる。
「ああ、それとね」
希望に満ちた決意を固めていたあたしに、ふとトウヤが声をかけた。さわやかにほほえみ、
「彼、起きたときはマッパだから」
「………………ま……っぱ?」
「ああ、リィンバウムの人にはわからなかったね。真っ裸。全裸で起きてくるはずだから」
つまりはエドス状態だね、あっちはハダカであってマッパじゃあないけれどははは、と彼は笑った。
さわやかに。
「だから何か着るものを用意しておいてあげた方がいいと思うんだよ。
君たちだっていきなりそんなもんが出てきたらびっくりするだろうし、ネスティさんだって女性ばかり三人で暮らしている所へ素っ裸で出ていきたくはないだろうからね」
異様にさわやかな笑顔と、その発言内容とのギャップに思考停止していたあたしは、
「……え、えーっと」
と言いよどみ、
「レ、レオルドがいるから大丈夫……」
よくわからない返事をした。トウヤは苦笑し、
「レオルドの方が平気でも、ネスティさんの方は女性に裸を見られるのは恥ずかしいんじゃないかな」
「だから、レオルドに服を持っていってもらえば」
「だから、そのレオルドも」
…………え?
「あの、レオルドは性別……なんてない……はず……」
「本人がそう言ったのかい?」
!
彼は小さく首を傾げ、
「トリス。こんな昔話を聞いたことはないかな?
昔ある島に四人の護人が住んでいました。
そのうちの一人は全身を無骨な鎧に包み、ドスの利いた声で喋っていたので、島の住人たちからは当然男だと思われていました。
しかし実は鎧の中に入っていたのは、とても可憐な少女だったのです」
!!
「それにね、トリス。
護衛獣は四タイプ……一人は少年、一人は少女、一人は少女のような少年、ときたらバランス的に最後の一人は……」
!!!!
護衛獣四タイプってどのレベルの話をしてるのとかいうつっこみも頭に浮かばず、あたしは身を翻し、ただひたすら駆けた。
レオルドの待つ小屋へ。
「ごめんっレオルド、気づいてあげられなくてーーーー!!」
「あっあるじ殿? 一体ナンノコトデスカ!」
「ごめんねごめんね、これからはちゃんとするからね、かわいい服も用意するからね、そんなこととは知らなかったのーーー!」
ゆっくりとあたしの後を追ってきたトウヤがにっこりとうなずき、
「やあ、すっかり元気になってよかった」
さわやかにほほえんでいるのも、あたしの目には映らなかった。
04.01.23