自転車隊に星が降る

 このところ2年連続で自転車がほしい。思えば昨年の夏も鼻息荒くお店に出かけたが、結局ぐずぐず迷っているうちに肌寒い季節になり、雪が降ったと思ったとたんに夏が来てしまうという訳だ。1万円くらいでママチャリを手に入れ、デジカメとタバコたずさえ近所の川原にツーリング、これがここ2年の目指すところとなっている。

 自転車といえば高校時代によく走りにいった。野宿しながらの泥臭い旅だったが、よくやったもんだなぁ。これがまた決まって雨が降る。しかもかなり凶悪で粗暴な雨だからたまらない。前も良く見えないし、すぐ隣を走る車の水しぶきも「きゃっ」なんて言うかわいいものじゃないのだ。後先考えず即座に開き直り、あえて水溜りへの突撃を繰り返すズブヌレ自転車隊としては決して雨は嫌いじゃないのだが、晴れたときに靴がものすごいことになるのかと思うといささか迷いもあったかも知れない。
 
 ある夏の旅である。テントも張らずに山の中の原っぱに男数人で転がっていた夜である。
転がっていたといってもさすがに敷物は引いていたのだが、確か小雨だったと思う。夜の空き地にリュックを枕に雑魚寝。顔など軽く濡れている。眼鏡を掛けているヤツなんか水滴で目が見えない。そんな笑える状況の中で果敢に寝ている彼をうらやましく思いつつ、ボーっと空を眺めていた。しばらく目を閉じる。どのくらい時間がたったのだろう。寝たつもりはないが、あるいは眠ってしまったのかも知れない。目を開けると今まで見たことがないような星空が広がっていた。小さなラジカセからはまだ音楽が流れている。やっぱりそんなに寝てなかったようだが、そのわずかの間に空模様は一転していたのだ。
 ふと、星が降ってきた。暗いのが幸いしたか、小さな流れ星を見逃さなかった。これは明日もいい旅になるな。ニタリと笑い、頭の後ろで両手を組みカッコつけてみた。そんな時なのだよ。まるで夜空が銀色のナイフで裂かれたような、「ボボボっ」って音まで聞こえてくるようなタイヘンな星が降ってきた。目で追いかけると首も一緒に動くほどの巨大なヤツだ。しかもそいつが撒き散らした星屑がしばらくちらちらと残っているのだ。
あいにく胸の前で手を組んで願い事をするほどロマンチストではなかったが、ちょっとしたものなら3回繰り返すことくらいできたのではないだろうか。感動にひたるまもなく、またすぐに次の星が落ちてくる。そう、それははじめて見る流星群であった。これは後で知ったことだが、その日は夏の風物詩とも言われるペルセウス座流星群の極大日であり、特別多くの流星が落ちてくる日だったのだ。夜の空き地に自転車、寝そべる少年、そして降り注ぐ流星群。うーん、なんとも絵になるなぁ。
 
 話がさわやかになってしまったが、いつもそんなことをしていたわけではない。下り坂で本気モードでペダルをこぎ、法定速度を30キロオーバー。実に72km/hで軽トラックを鮮やかに抜き去るという荒業をやってのけたり、50キロで走行中に仲間と接触し、ひらりと宙に舞ってみたりもした。冬にゲレンデとなる山で爆走、このときもやっぱり宙に舞った。しかし乗り方はどうあれ自転車で感じる風は特別で格別なのだ。


 よし、決めた。今年こそ自転車を買うぞ。そして短パン、つっかけ、タバコスタイルでいい感じでコンビニへと繰り出すのだ。