新宿京王焼きそば事件

 東京には時々遊びに行っていたが、今回初めてパック旅行を利用してみた。わざわざ説明するまでもないだろうが、普通に新幹線で行ってホテルを予約するより格段に安いのだ。往復の新幹線代から計算すると、ホテルの宿泊費はなんと一人6千円である。正直、なぜ今までこれを使わなかったのかと悔やまれるところだ。
 
 今までは主にみなとみらいや池袋に宿泊していた。みなとみらいのワシントンホテルは、その立地条件やお手軽な料金、部屋からの景色の良さなど文句なしであった。なにより私たちのスタイルにあっていた。どこかで美味しい夕食を食べ、ぶらぶらと買い物をする。疲れたらコンビニでつまみとビールを買い、夜景がきれいな部屋でだらだらと酒を飲む。肩肘張らず、自分たちのペースで楽しむ旅が好きなのだ。東京に限らず、少し遠くに出かけるときはいつもこのスタイルを保持してきた。今回もまた、そんな気楽な買い物旅行を計画していた。


 台場・新宿・葛西を勝手に周遊1泊2日の旅は、初日のスケジュールを順調にこなしていた。主にお台場での買い物がメインとなるわけだが、女性のオカイモノというのはどうしてこう時間が掛かるのかと、またいつものように思ってしまった。すっかり足が棒である。よたよたとレストランに入り、たまらずビールを飲んでしまった。少々早めの夕食となったが、これでだいぶ生き返る。この後の後半戦、きっとビールがなければ乗り切れなかっただろう。

 都営大江戸線都庁前駅で降り、小学生みたいな靴ずれを引きずりながら京王プラザホテルを探す。実は地下鉄から上がってきてすぐ隣がそうだったのだが、あの辺一帯は超高層ビルが立ち並ぶエリア。あんまり高すぎて分からなかったのだ。しかし場所が分かればいつもの自分を取り戻し、余裕の笑みでコンビニへ向かい、ビールなどを買い込むのである。あとはチェックインを済ませ、部屋でだらだらビール祭りといこうじゃないか。

 「せっかくですのでスイートをご用意させていただきました。記念にどうぞ」
え、今なんと。突然のことでただうなずく。隣のカウンターにはどこかの航空会社のパイロット。当然英語でのやりとり。…ま、まずーい!場所違ってる!ジーパンに靴ずれしたスニーカー。沢山の買い物袋にコンビニ袋。GAPの紙袋の陰にそっとファミリーマートを隠してみた。だが、トドメはここで刺されることになる。
「お部屋までご案内いたします。お荷物、お持ちいたしますよ」
きゃー、それには触らないで! そのとき、コンビニ袋からビール缶と焼きそばがゴロリと転げだす。すいませんと言って、ロビーの真ん中で焼きそばを拾ってくれるポーター。嗚呼、悲しきスイートデビュー。お、おまいら、馬鹿にすんじゃねーぞぉ。心の中でそっと逆上し、それでも涼しい顔をして部屋へと連行されていったのだった。

 部屋はすごかった。なんでトイレふたつもあるの?なんでシャワールームガラス張りなの?でも一箇所にちょんと座ってビールを飲む。この広さ、生かしきれないよ。最上階から2フロアほど下に位置するこの部屋はセミスイートになるのだろう。
 翌朝料金表を発見して驚愕した。お一人様9万円。二人で18万円。今回の旅行、新幹線代を引くと二人で1万2千円しか払っていない。それを考えるととてもお得なパック旅行だったと言える。それだけに悔やまれた。焼きそばの持ち込みはあまりにも悲しい。