救命センター22時

 私が勤務している大規模病院には高度救命センターが付属している。ということで今回は、診療放射線技師の視点というおそらくみなさんが慣れていない角度から夜の病院にメスを入れようという話なのだ。医師や看護師主体のドラマやエッセイはあっても、放射線技師が…となるとトンと見かけない。だってかっこいい見せ場作りにくいもの。でもたまにはそんなのもいいだろう。

 うちの救命センターがもっとも忙しい時間帯、それは21〜22時。ある時はキンキュウこどもセンターと化してしまう恐ろしい時間帯なのである。仕事を終えた親御さんが具合の悪いお子さんを連れてワラワラとやってくる訳だが、中には勘違いされている方も多いのが事実だ。
ある信頼できる情報スジからこんな話が届いた。友人の子どもが熱を出したという。今なら○○小児科医院の診察に充分間に合うから行っといでと助言をしたところ、夜に救命行くから別にイイというのだ。しかも「うちの子は○×総合病院に掛かってるの」と自慢げだとか。ちなみにうちの当直で初期診療に当たるのは研修医が多い。夜の当直は彼らにとって重要な勉強の場であり、場数をこなす為には必要なプロセスなのだ。よって大病院の夜間診療が必ずしもその道のベテランと言うわけにはいかないのである。
 例えば顔をぶつけた男性。当然レントゲン撮りましょうか、という流れになる。すると「いつもこういう時どんなオーダー出てます?」「どこをどう撮るかはお任せします」「あれもやったほうがいいすかね」こんなことを言われたりする。しかし研修医の先生達にとってはわからないことが多いのが当然。それを学んでいく場なのだ。しかしこれは研修医に限った話ではないから医学界はムズカシイ。たまたま皮膚科の当直医のところに頭痛がきたら?循環器科医のところに打撲がきたら?そら当然後ろに控えてますよ、各科の専門医が。だって救命センターですから。でも軽症の場合、足くじいた人を最初に診てる先生が眼科医だったりするんです、実際。で、写真撮ってると「折れてますかね」「怪しいとこないですかね」などと聞いてくるわけだ。だがあいにく私は診断を下すほどの能力なんて持ち合わせておりません。「どうっすかねぇ」などと話を平行に保ち、その場を逃げ出すのである。


 そういえばこんな患者さんもいた。夜の3時、電話で起こされる。30代男性、右拇指の撮影をお願いしますとのこと。彼に話を聞くと3日ほど前に突き指してまだ痛いなどと言うではないか!明日の昼休みにどっかの整形外科医院にでも行けー。(`д')/  そんなことを言えるはずもなく、さわやか笑顔でさっさと写真を撮りスタコラと当直室へと潜り込んだのであった。

 大規模病院は大変頼もしい存在であるに違いない。総合病院・大学病院神話というのが未だに患者さん達には根付いているのが現実である。しかし何だろうな。経験豊かな個人医院などにも目を向けてみたらいいのに。
 そんなイッチョマエ的願望を膨らませていたらCTで呼ばれた。電子レンジの中の弁当は健気に私を待っていてくれるだろうか。それとも「私の愛はもう冷めちゃったわ」などと雲行き怪しい訳あり発言に仕事する気力まで奪われてしまうのだろうか。
 それともそれとも、そんなことはどうだっていいのだろうか。